第1回 巡礼のはじまりは「レバーケースゼンメル」で
皆さんはじめまして!ミュンヘンで編集者をしている溝口シュテルツ真帆といいます。
このたび、少々唐突かしらと心配をしながら、この『YOUNG GERMANY』でのブログのテーマに「南ドイツの巡礼路」を選びました。
もとよりただひたすら歩く旅が好きで、大学時代に四国遍路を、そして昨年にスペインのサンティアゴ巡礼を終えてなお、私の巡礼路探訪熱は高まるばかり。ずうっとのびた見知らぬ道にすべてをゆだねて、目的地を目指し黙々と歩き続ける……体はくたびれ果てますが、あの経験は何にも代えがたいものです。
■サンティアゴ巡礼路はドイツにもある
スペインのサンティアゴ巡礼路については、すでに多くの本や映画にもなっていて、ご存じの方も多いでしょう。現在、旅人たちの多くがスペインとの国境近くのフランスの町、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーからその一歩を踏み出し、約800km先のキリスト教の聖地、聖ヤコブの遺骸が祀られているというサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂を目指します。
このブログのテーマは何がよいかと考えていたとき、サンティアゴ巡礼中に出会ったあるドイツ人の若者の言葉をふと思い出しました。
「僕はハンブルクを出発してフランスを抜けて、約3000kmを歩いてきたんだ」
その時はへえすごい!と驚くばかりでしたが、よく考えればそうです。かつて人々がそれぞれに暮らしていた場所から聖地を目指して歩いた道が、ヨーロッパ中、もちろんドイツにも通っているはずなのです。そう思って調べてみれば、すぐに見つかりました。
「Jakobsweg」
ドイツ語でヤコブスヴェークと呼ばれる、実に30ルートにもなる巡礼路がドイツ中を網の目のように走っているではありませんか(参考:Deutsch Jakobswege Pilgern vor der Haustür)。そうと知ったらいてもたってもいられません。さっそく、私の住むミュンヘンから約270kmにわたって南西にのびるヤコブスヴェーク、その名も「Münchner Jakobsweg(ミュンヒナー ヤコブスヴェーク)」を歩く計画を立てはじめました。といっても、現状長い旅に出るのは難しいため、自宅を拠点に基本的には日帰り、時には1~2泊をして、少しずつ歩き進めることにしました。四国遍路で言う、「区切り打ち」という方法です。
■ミュンヘンの裏通りで懐かしいホタテに出合う
私がミュンヘンに移住したのはわずか1年半前のこと。この地方を知り尽くしたとは到底言えません。はじめての道をじっくり歩いて私自身もよりディープな南ドイツを知って、そして巡礼路とこの土地の魅力を皆さんにお伝えしたい、そんな思いでいます。美しい景色に、独特な風習、もちろん食文化も!一緒に巡礼をしているような気持ちになってもらえたら何よりうれしいです。
私はキリスト教徒ではないので、あくまでもこの道を「歩かせてもらう」気持ちも大切にしながら。
前置きが長くなりましたが、さあ、いよいよです。まずはミュンヘン市内のスタート地点のご紹介を。近くを何度も通りかかっていたにもかかわらず、今回初めて訪れることになった「St.Jakobskirche(聖ヤコブ教会)」。繁華街の裏通りにひっそりと建つ、赤レンガ造りの簡素な教会です。見れば、ああ、懐かしいホタテの姿が!
ホタテは道しるべとなるだけでなく、巡礼者の証として、旅人が皆その貝殻を身に着けるものなのです。私ももちろん持って……おっと、今日は忘れてきてしまいました!
聖ヤコブ像に「行ってきます」の挨拶をして、教会から北東の方角にのびる巡礼路を200mほど行くと、ミュンヘン市民の胃袋をがっちりつかむ「Viktualienmarkt(ヴィクトアーリエン市場)」のすぐそばを通ります。
時間はちょうどお昼時。さっそくですが、ここで腹ごしらえをしていきましょう。
■ふわぷり食感!南ドイツの定番サンド
最初に目についたスタンドで「Leberkässemmel(レバーケースゼンメル)」を買い、ぱくりとほおばります。
親しみやすい味で、やっぱり美味しい! 「Leberkäse(レバーケーゼ)」は、ふわふわ、ぷりぷりの食感、塩気のきいたきめ細かいミートローフといったところでしょうか。これをオーストリア生まれの素朴な丸パン、「Kaisersemmel(カイザーゼンメル)」で挟んで。マスタードがきいたシンプルなサンドは、小腹を満たす軽食として地元の人々から大変愛されています。飲み物はソフトドリンクの定番、アップルジュースを炭酸水で割った爽やかな「Apfelschorle(アプフェルショルレ)」を。
気温16℃、晴れ。最高の天気です。市場のビアガーデンで楽しそうにビアジョッキを傾ける人々を横目に、さあ、南ドイツ巡礼の旅のはじまりです!
著者プロフィール:溝口 シュテルツ 真帆
2004年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。南ドイツの情報サイト『am Wochenende』を運営中。http://www.am-wochenende.com/