インタビュー : アーティスト Nils Völker (ニルズ・フェルカー )
ドイツのアーティスト、ニルズ・フェルカーが、日本で初めてインスタレーションを発表します。東京の21_21 DESIGN SIGHTで6月19日から始まる「Motion Science(動きのカガク展)」に、ニルズ・フェルカーの新しい作品『SIXTY EIGHT』が展示されます。展覧会に先立ち、フェルカー氏に話を聞くことができました。
2010年に、インスタレーション『ONE HUNDRED AND EIGHT』を初めて発表しましたね。この作品は、白い普通のゴミ袋を、見る人が立つ位置に合わせて、送風機で膨らませたりしぼませたりするものでした。アートと技術をこのように結びつけるアイデアは、どこから生まれたのでしょうか?
『ONE HUNDRED AND EIGHT』の具体的なアイデアは、けっこう平凡でした。あれは長い間、「仕事のあとの趣味」のようなものでした。ある時、たくさんの送風機がものすごく安く手に入る機会があり、250台くらい購入しました。その時はまだ具体的なイメージはなく、それを使って何ができるか考えていました。送風機が技術的にどのように機能するのか、どうやって制御するのかを考えました。いろんなことを試しましたが、わりと単純に、何かを膨らますことを思いつきました。そしてゴミ袋は、いわばちょうど手近にあったものでした。そして、ここから全てが発展していったのです。
ゴミ袋は1つでも結構いい感じでしたが、それから、いくつか使おうと考えました。遊びのようなやり方で、いろんなことを試しました。私の場合は、特定の基本的アイデアや伝えたいメッセージがあって、そのために最も良い手段を選ぶ、というのではありません。自然に決まっていくことが多いのです。その過程で何か失敗し、違うやり方の方がうまくいくことが判ったりします。
例えば『ONE HUNDRED AND EIGHT』の場合、本来は全然違うものになる予定でした。ところが、ゴミ袋の動きが遅すぎて、膨らむのに時間がかかりすぎました。そこで、ゴミ袋の膨らませ方を調整できるよう、いろいろやってみました。そうしたら、うまくいったのです。
以前から技術的な知識はありましたか?それとも 「ラーニング・バイ・ドゥーイング」だったのでしょうか?
あれは絶対「ラーニング・バイ・ドゥーイング」でしたね。大学で学んだのはグラフィック・デザインで、数年間グラフィック・デザイナーとして働いたこともあります。おかしな話ですが、当時私は8歳以上の子供が対象の、ロボットを作れるレゴセットを持っていました。あの時はレゴの比較的大きなコミュニティがあって、そこではものすごいものが作られていました。主にアメリカの大学教授が、授業で使ったりしていました。このレゴセットで色々やってみるうちに、ものを作ることがすごく面白いと感じるようになりました。そうするうちに、本当の電子工学に出合ったのです。電子技術は、理論を学んだこともなければ、作業のやり方を習ったこともありません。今でも常に、うまく機能しないものがあります。でもそこからまた、新しい可能性を学ぶのです。
フェルカーさんのインスタレーションで繰り返し使われるものに、ビニールのゴミ袋とプラスチックのクッションがあります。なぜいつも、こういったマテリアルを使うのですか?特別な理由があるのでしょうか? 何か魅かれる部分があるのでしょうか?
意外でしょうが、正直とても、とても魅かれるものがあります。最初、『ONE HUNDRED AND EIGHT』はひとつのインスタレーションとして完結し、そのあとは別なことをしようと思っていました。ところが、そこからまた新しい作品が生まれていきました。いろいろなバリエーションを作れたことも意外だったし、機能や与える印象も多種多様で、驚きました。フランス北部の教会で制作したインスタレーションは、銀色の袋が長い列になってぶら下がっていて、それが潮の満ち引きのデータに従って動くというものでした。インスタレーションは波のように動き、本当に波が寄せては返すような音がしました。また、これとは異なったコンテクストで黒いゴミ袋を使った作品は、全く違う印象になりました。
6月に東京の21_21 DESIGN SIGHTで公開する『SIXTY EIGHT』という新しいインスタレーションについて、話していただけますか?
青いゴミ袋を使った、床に設置する水平のインスタレーションになる予定です。これまでよくあった四角い面の作品ではなく、4x4の大きさの5つの面が互いにつながって、階段状のフォルムになります。プログラム技術上はこれまでと全く異なったことができるので、とてもエキサイティングです。私の場合、ディテールは制作過程で決まっていきます。完成した形が決まっている作品を作るのは、好きではありません。インスタレーションをある場所に運び、組み上げ、インスタレーションが機能するように、空間をできるだけ適合させる、というのではありません。私の場合はむしろ逆で、インスタレーションをその空間に合わせるのです。 21_21 DESIGN SIGHTでインスタレーションを展示する階は、床が鋭角三角形になっていて、インスタレーションのフォルムがぴったり合うと思います。
お話をうかがうと、技術的要素でも新しいステップを踏み出し、新しい挑戦をするようですね?
技術的なディテールでは、ちょっと挑戦もあったと思います。こんなふうに挑戦できるからこそ、これまでの作品を発展させていくのが好きなのです。前に作ったものを利用して、発展させることができるから。そうすれば毎回、ゼロからスタートする必要はありません。これは重要なことです。このような展覧会の会期は3か月くらいで、その間インスタレーションは、当然きちんと機能しなくてはいけませんから。新しく開発したものには、何らかの小さな不具合が起こるリスクがあるかもしれません。そんな時、1000キロも離れた場所にいると、対応は簡単ではありません。このインスタレーションの場合、新しいフォルムが挑戦課題となりました。でも、今までは壁面を使った作品が多かったので、床に設置するインスタレーションを作りたいと、強く思いました。今回は、設置空間に階段があり、作品全体を上からも下からも見ることができて、様々なパースペクティブから作品に対峙することができます。これはとても、とても魅力的なことです。
二ルズ・フェルカー
http://www.nilsvoelker.com/index.html
*オープニングイベント 「 オープニング ギャラリーツアー」 二ルズ・フェルカーと共に
6月20日 14時から15時30分
* Motion Science (動きのカガク展 )
21_21 DESIGN SIGHT (東京ミッドタウンガーデン)
2015年6月19日– 9月27日
入場料 一般 1,100円 (大学生 800円、高校生 500円、中学生以下無料
www.2121designsight.jp