メルケル首相訪日
メルケル首相が来るというのは、世界中のどのドイツ大使館にとっても一大事です。準備は何ヶ月も前から始まり、最後の数週間、そして首相一行到着前の数日間は多忙を極めます。行程は分単位の計画が要求され、繰り返し日程の組み換えを余儀なくされることもあります。当然、接受国政府や各日程の関係者とあらゆる点に関し調整を重ねなければならず、(食事の内容、どの車両に誰が乗車するか、宿舎でどの玄関を利用するかといった)一見些細に見えることにも、細心の注意を払います。
メルケル首相は3月9日と10日、日本を訪問しました。機体側面に「Bundesrepublik Deutschland(ドイツ連邦共和国)」と書かれた政府専用機が羽田空港に降り立ち、VIPスポットに移動する様子を、出迎えにでた私たちは特別な感慨を胸に眺めました。今回、安倍総理大臣は、根津美術館視察から少人数の夕食会にいたるまで、実に5時間以上もの時間をメルケル首相のために割いてくださいました。
首脳同士の会談や意見交換は、出席者が異なる複数の会合にわたって行われ、日独関係についてや今日の世界における様々な課題とその解決が話し合われました。天皇陛下のご引見も行われました。ご引見では大使だけが同席を許されており、もちろん一言も発することはないものの、同席自体大変名誉に感じました。メルケル首相は、民主主義的な慣例にのっとり、野党の党首である岡田民主党代表とも会談を行いました。
メルケル首相が会合をもったのは、政府や国会の関係者だけではありません。日本の研究者や学術関係者、金融関係者、各界の女性リーダーともそれぞれ意見交換の場をもち、議論を深めました。さらに朝日新聞社等が主催した講演会において外交政策について語り、会場からの質問に答えました。川崎市の三菱ふそうトラック・バス社で企業視察も行いました。
どの日程においても、様々な分野において、何を互いに学びあえるかが話し合われました。メルケル首相はまた、過去の克服やかつての敵国同士の和解に関しドイツやヨーロッパの経験を語りました。しかし、助言や呼びかけを行うのではないということをどの場面でも重視しながら語りました。ほとんどの人々が正しく理解してくださいましたが、もちろん批判的な報道も色々ありました。しかしこれも民主主義であればこそだと思います。
火曜昼、政府専用機が東京上空へと離陸したとき、大使館職員一同疲れ果てていましたが、全て上首尾に実施できたことに大きな喜びも感じていました。そして私自身は、大変な頑張りと能力を発揮してくれた職員たちに大きな誇りを感じました。