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日本にはないドイツ的な概念“Möchtegern“

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日本にはないドイツ的な概念“Möchtegern“

先日、「懐かしい」という言葉を日本人は日常生活の中でよく使うけれど(「懐かしい味」、「懐かしい風景」など)、ドイツの場合は「懐かしい」という言葉を日常で使うことはあまりなく、むしろFernweh(旅情)という言葉をよく使う、ということを書きました。Fernwehとは遠くに焦がれ遠くに行きたくなるまさに旅情の事を指しますが、逆に日本ではこの「旅情」という言葉、日常生活ではあまり使われていない印象です。

 

さて、そのほか、ドイツではよく使われているけれど日本にはない概念にMöchtegernというのがあります。このMöchtegernという言葉、日本語への直訳が難しいのですが、ニュアンスを説明すると、例えばドイツでヴィトンのバッグを持ち歩いていると「あの人はMöchtegernだ」と言われてしまう可能性が高いです。Möchtegernセレブ、つまりは、本当は親も自分もセレブではないのに、セレブになりたい哀れでミジメでカッコ悪い人、ヴィトンなんか持っちゃって、というニュアンスがこのMöchtegernには含まれています。

 

そう、ドイツは日本と比べるとかなりの身分社会なのです。この身分社会というのは制度ではなく、人々の頭の中が「身分社会」なのですね。日本では良い意味でも悪い意味でも「努力」「がんばること」が重んじられる社会ですから、本来は要領が悪い人が猛勉強の末受験に勝ち抜き一流大学に入った場合、それをとがめる人は誰もいないですよね。ところがドイツの場合ですと「もともと生まれながらに頭が切れるタイプではないのに、しょせんガリ勉をして上に上がった人」という見方をする人が日本より多くいる印象を受けます。ヴィトンやブランド物に話をもどすと・・・日本では両親が資産家ではなくても、本人が仕事やアルバイト等をしてがんばって稼いだお金でヴィトンを買ってそれを持ち歩いても、日本ではそれをMöchtegern(セレブになりたい哀れでミジメでカッコ悪い人)と叩くことはしないのですね。むしろ「がんばって買ったんだから、いいじゃない」という自由な雰囲気が日本社会にはあります。ちなみに、庶民派出身の私としては日本のこの考え方は好きです。

 

その点、ドイツには、やっぱり「ある」んですよ。「貴族でもない人が、または両親が資産家でもない人が、ヴィトンを買って持って歩いてどうするの?そんなにヴィトンを持ちたいなんてMöchtegernじゃない!」みたいな考え方が。でもよく考えてみると、それは身分社会そのものの考え方(つまりは「お金持ちはブランドを持っていいけど、庶民がヘタに真似ごとをして金持ちと同じものを持つな」という考え)であるので、私はあまり好きではありません。

 

むしろMöchtegernは良い事なのではないか?と私は思う部分もあります。こういうものがほしい、こういう風になりたい、だから勉強しよう、仕事を頑張ってお金を稼ごう、そしてそれなりに良いものを買おう、良い学校に入ろう、野心をもって何が悪いのかって思いますね。ちなみに日本ではそういう考え方が受け入れられているからこそ、一昨年になりますが林真理子さんの「野心のすすめ」(講談社現代書)という本がベストセラーになったのだと想像します。

 

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Möchtegernはいわば資産に恵まれていない人が野心を持つことを否定する言葉(揶揄する言葉)でもありますので、繰り返しになりますが私は一部のドイツ人が使うMöchtegernという言葉はあまり好きではないのでした。ちなみに、ご参考までに、和独辞典にMöchtegernと入れたら「自称~」と出てきました。(が、ドイツ現地の“Möchtegern“の使われ方は、前述どおり、資産家でない人がブランド品を持っていると、周囲にMöchtegernだと言われてしまう、というような使われ方が多いです。)

 

日本は「努力」や「がんばること」に重点をおき、どんな人がどんな持ち物を持っていようと(たとえ親が資産家でない人がブランド物を持っていようと)自由なのに対し、ドイツは身分社会の影響が考え方としてまだまだ残っている、というお話でした。

 

次回もまた日本とドイツの「感覚のちがい」について書きますね。

 

あ、それから遅れましたが、新年あけましておめでとうございます。今年2015年もどうぞよろしくお願いいたします!

 

P.S.NHKラジオ第二放送で「まいにちドイツ語きっと新しい私に出会える“大人な女“のひとり旅」~Mihos Traumreise~」を再放送しています。月~水の朝7時からです(同日3時15分にも再放送)。白井宏美先生と一緒に出演しておりますので、ドイツ語を勉強したい方、ぜひ聴いてくださいね(^_-)-☆

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン