ドイツ情報満載 - YOUNG GERMANY by ドイツ大使館

11月9日 ベルリンの壁崩壊の日に

©Hideko Kawachi

11月9日 ベルリンの壁崩壊の日に

11月9日。
この日は、10月3日のドイツ再統一記念日に続き、ドイツに来てから私にとっても、重要な日付になりました。
1989年、11月9日。
28年間、東ドイツ国民を阻んだベルリンの壁が、崩壊した日です。

今年は、25周年を記念して「光の国境」というインスタレーションが作られました。8000個のLEDでライトアップされた風船を、当時ベルリンの壁があったところ15kmに渡って並べるというもの。11月7日に点灯され、9日の夜、その風船は空に放たれて「壁」は消えていく……
というポエティックな作品です。

しかし、そもそも「ベルリンの壁」って何なんでしょうね?

東ドイツの中にあった飛び地、西ベルリンを囲む155kmの壁。
東ドイツでは「Antifaschistischer Schutzwall」(反ファシズム防御壁)と言われ、東ドイツ国民を「資本主義」の毒牙から守るためという建前で作られた壁は、最初は土嚢を積んだうえにぐるぐる鉄条網を広げるという簡単な形で、一晩で作られました。毎月増え続ける東ドイツ国民の西側への亡命、流出に歯止めをかけるために……。

その後、4回の改善(改悪?)を経て、いま、イーストサイドギャラリーや、ベルナウワーシュトラーセの記念館で見られるような形になりました。

高さ3,6メートル。鉄の棒で補強したコンクリートで、後ろに長い土台は倒れにくく、車で激突しても突破しにくい工夫。これ1枚ではなく後ろにも「Hinterlandmauer」という2枚目の壁があって、その間には犬がいて、監視塔があって、マシンガンをもった監視員が居て。

これまで自分でも資料を読み、何度も何度も人に話し、人の話を聞いて、「ベルリンの壁」は、「理解」していたつもりでいました。

11月7日、この「光の国境」が点灯された夜、たまたまポツダム広場にいてボーンホルマーシュトラーセ方面へと自転車で走っていたんです。ぽつぽつ と続く、光のライン。ゆらゆらと光をはなって揺れる、丸い風船。あ、これはベルリンの壁があったルートだ、といまさらながらに実感しました。

ポツダム広場から、ブランデンブルク門、現代美術館のある辺りを通って、路面電車の工事現場を通って、ベルナウワー通り、路面電車M10と平行して走って、壁公園をつっきって、あら、まだ光が見える。続く、まだ続く。

IMG_4568 IMG_4567

光の国境の長さは、15km。この10倍以上の距離に渡って、あの灰色の壁が続いていたんだ……と思ったら、ちょっと、絶望しました。

いま残っている壁を見ると高さもないし、「頑張れば越えられたんじゃないか?」と思うこともあったのです。でも、あの長さに渡って壁がひたすら続く……見ただけで無力感に襲われたんじゃないかと、はじめて実感をもって理解できたような。

11月9日、夜。友だちと待ち合わせて、ベルナウワーシュトラーセへ向かいました。皆手にシャンペンの瓶を持って、大晦日の日のようなパーティムード。子どもたちを肩車したお父さんが、いっぱいです。

IMG_4612風船の高さは約3メートル。この高さは壁の高さより、ちょっと低い。大人が肩車をしたら、乗り越えられてしまう高さの壁が、越えられない時があった。

壁を越えようと試みられたのは、壁が出来た60年代が最も多く80年代には両手で数えられるほど。事前に密告があったのかもしれませんが、それよりも、もうどうにもならないというあきらめの気持ちが強かったのではないかと思いました。

それだけに、壁が、国境が開いた時の喜びはどんなものだったでしょうか!

今年放映されたZDFのドキュメンタリーでは、壁が開いていく様子が臨場感あふれるライブ映像で捉えられていました。

最初に国境が開いたのは、ボーンホルマーシュトラーセの橋。
「1989年11月9日広場」という直球の記念名が付けられていますが、いまは、この日の写真が飾られています。

IMG_3074 IMG_3076

ここに詰めかけた人たちが、「発表があったから、いまから通行は自由になるはず!」と主張しながらも半信半疑のような顔だったのが、本当だ!夢じゃない!とこぼれるような笑顔になる。
仕事柄にこにこしちゃいけない、としかめ面をしつつも、笑顔を向けられ、花を贈られ、キスまでされてちょっと困り顔の警備隊員。

何度も見たことがあるはずの映像だけど、本当に胸が熱くなりました。Mediathekで、まだ見ることができるので、ご興味ある方はぜひ!

そんなビデオ映像が流されるなか「光の国境」、風船が空に放たれました。いっせいに、ではなく、ドミノのように、少しずつ。ぽろぽろと、壁が空にほどけるように消えていきました。風船には、それぞれ願いの手紙がつけられ、スイッチを押すとふわっと風船が棒から離れ、飛んでいきました。

IMG_4600

打ち上げ花火があがり、色んな言葉で嬉しそうな歓声があがって、シャンペンの栓が抜かれて。皆、笑顔で、必死でカメラを構えていました(笑)

IMG_4628

……
いまも、ベルリン、ドイツは問題は山積み。東と西の格差は、縮まってはいません。それでも、壁のない世界が、壁のないドイツが絶対にいい。改めて色々なことを思わされた、夜でした。




 

©Kawachi

©Kawachi



著者プロフィール
河内秀子(かわちひでこ)

東京都出身。2000年からベルリン在住。
ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』や『giorni』などでもベルリンやドイツの情報を発信しています。ガイドブック『ことりっぷフランクフルト・ベルリン』編など。
趣味は漫画とカフェ巡り、食べ歩き。蚤の市やオーガニックコスメも大好物。
Twitter(@berlinbau)で『一日一独』ドイツの風景を1日1枚、アップしています。

 

 

河内 秀子

東京都出身。2000年からベルリン在住。2003年、ベルリン美術大学在学中からライター、コーディネーターとして活動。雑誌『Pen』『derdiedas 』などでもベルリンやドイツの情報を発信させて頂いています。
趣味は漫画と東ドイツとフォークが刺さったケーキの写真収集、食べ歩き。蚤の市やマンホール、コンクリ建築も大好物。
Twitterで『#日々是独日』ドイツの風景を1日1枚、アップしています。@berlinbau

河内 秀子