”自分にしか出来ないこと”の答え探し
会場を取り囲む数え切れないほどのアンティークピアノは、縦にも横にもバラバラにもなって置かれていた。
壁には、ピアノの部品の一部が絵画のように一面に飾られ、天井には1つも同じものがない多数のアンティークランプ、修理道具でさえ、アンティークの美術品に見える芸術的な配置っぷり。
魔法使いが住んでる屋敷、まさにそんな感じの、初めて見る空間の中で聴いた生のJAZZは至極のものだった。
ここは、アパートメントからわずか徒歩15分に位置するピアノのチューニング倉庫”Piano Salon Christophori”
このサロンでは、週に数回、クラシックやJAZZのコンサートが開催されている。しかもエントランスはドネーション形式。
私たちが行った日は、トランペットがフロントマンの、ピアノ、ドラムの3人編成によるドイツ人カルテットのコンサートだった。プロの音楽家たちがツアーの合間などにこういったイベントを行っている。そんな空間で聴くJAZZは、とてつもなく特別なものに思えたし、実際、特別だったのだと思う。
ベルリンに住みだして、あっという間に5ヶ月が過ぎた。東京を離れて、地元で渡独の準備をしていた期間と同じだけ過ぎ去ったのだ。本当にあっという間で、日々の濃さがこれまでとは比べ物にならないぐらい濃く、スピーディーで、ゆっくり、じっくり考える時間なんてなかった。
だけど今、5ヶ月目にしてようやく、自分はものすごく特別な環境で、ものすごく特別な経験をしているのだと実感し始めている。これまで海外に住んでいることを特別に思ったことなんてなかった。やろうと思えば誰にでも出来るのだから。でも、ただ何となく海外にいることと、目的を持って海外にいるとでは大きく違う。
ベルリンは特にマイペースに、自由に暮らしている人が多いと思われがちだけど、がめつく生きる必要がないだけで、ノーストレスの中、きちんとしたビジョンを持って、生きている人がほとんどだ。中にはとんでもない人もいるけれど、関わらなければ良いだけで、実際交わることもほとんどない。
ヴァイオリニストとヴィンテージ着物のバイヤーである彼女たちとは、本当によくいろんな話をするけれど、凛とした生き方と強さにとても好感を持っている。女性らしく、日本人らしくあることも決して忘れていない。私が恋愛至上主義者を苦手とするから余計にそう思うのかもしれないけれど。
多くの媒体で記事を書かせてもらい、もう1つの仕事であるPRとしても動き始めた今、想像を超える出来事や場所や人に出会う度にカルチャーショックを受けながら、驚くだけでなく、そこから繋がってゆく自分の世界をリアルに思い描けるようになってきた。
”自分にしか出来ないことがあるのかもしれない。”
その答えが出るまで、私はこの”ベルリン”という街に居続けるのかもしれない。