Designgeschichten ドイツ発デザインストーリー

ベルリン・デザインウイーク

ベルリンでは5月末から6月初めに、「国際デザインフェスティバル(DMY)」や「ベルリン・デザインウイーク」が開かれ、デザイン一色に染まりました。「国際デザインフェスティバル」の開催は、今年でもう12年目です。これは、デザイン関連の企業、デザイナー、デザイン学校のほか、デザインを学んだ若い才能のための見本市です。同時に、ワークショップの多彩なプログラムが、新しい視野を開き、交流を促進します。見本市は、使われなくなったテンペルホーフ空港の航空機格納庫で行われ、デザイン業界だけでなく、ベルリン市に対しても、大きな刺激を与えています。さらにこの見本市は、未来のトレンドを発信します。その中でも目立つのは、エコロジーデザインやソーシャルデザインの多様な展開や、新しいアプローチです。特に若いデザイナーやさまざまな大学で、それが顕著です。

ベルリン・デザインウイークは、街中あちこちでイベントが行われる、サテライト形式の見本市です。この見本市は、ベルリンのデザイナーやその周辺の多様な活動をまとめ、ベルリンで活動するデザイン関係者のクリエイティブな力を見せるものです。ここにも、エコロジーデザインに関連した多様なアイデアが、今の時代精神を映し出します。若いデザイナーの作品で特におもしろかったのが、第6回ドイツリサイクルデザイン賞の受賞作品で、「リサイクリングデザイン賞-ゴミで作ったクリエイティブデザイン」という展覧会で展示されたものです。これについて、少し詳しく書こうと思います。このコンペティションには、16か国以上から600人を超えるデザイナーが参加しました。応募作の約3分の2はドイツからの参加でした。デザイナーに与えられた課題は、使用済みの製品や廃棄物を、イノベーティブで有用なものに変える、という事でした。1位は、「130」という作品を作った、ハンブルクのヘンリー・バウマンでした。

Henry Baumann, "130"1. Preis, Henry Baumann

バウマンは、果物を入れる木箱を使って、ベンチ、デスク、照明器具などを作りました。彼の作品で特にすばらしいのは、全く新しい美を創り出していることです。材料を並べ替えることで、例えばデスクの真ん中やベンチの座面に、新しい模様が現われます。この模様は、木箱にはなかったものです。使われた材料がもとは何だったか、この作品の背景を知らなければ、一見しただけでは分かりません。2位に選ばれたのは、ポーランドのダリア・ヴァルタルスカでした。このデザイナーは、「テーブルウエア・リサイクリング・セット」を作りました。この作品では、材料が使用済みのガラス瓶だということがすぐ分かります。

2. Platz, Daria Wartalska (aus Polen)

この他に特に魅力を感じたのは、カ―ルシュタット出身のロズヴィタ・ベルガ―=ゲンチュの「双円錐形の壺」です。このオブジェは、使用済みの紙のカートンで作られています。壺の上部から斜めに広がるシェイプや、カートンの層の組み合わせが、この壺を特に魅力あるものにしています。特に、壺の中ほどの膨らんだ部分では、カートンの層を縦に使ったり横に使ったりして変化を出し、見る人に特別な緊張感を感じさせます。このオブジェは壺の形をしていますが、装飾用のオブジェとしての機能しかありません。でも、とても美しいオブジェだと、私は思います。

„Kegelhalsgefäß“, Roswitha Berger-Gentsch

また椅子のオブジェは、ベルリンのカティア・ヘットラ―とユラ・トュルマンのものです。ふたりは再生紙でロープを作り、ラタンや紙のロープで作った土台に取り付けました。

肘掛椅子の座り心地を確かめることはできませんでしたが、見るからに心地よさそうです。

Sessel aus Papierseil, Katja Hettler, Jula Tüllman

また、服飾分野でも、イノベーティブなアイデアが見られました。ビュンデから参加したスヴェトラナ・シュミットは「借金シャツ」を制作しました。このシャツは、銀行通帳を細く帯状に切ったもので作られています。

Das Schukdenhemd, Swetlana Schmidt

このほか、デュッセルドルフのビクトリア・レぺシコは、使用済みのテニスボールで、「スポーツとエレガンスの出会い/服の制作」と名づけたオブジェを作りました。これは、実際に着ることのできるブレザーです。今度テニストーナメントに出かける時は、このブレザーを選べば間違いないでしょう。

Sport trifft Eleganz, Viktoria Lepeschko

作品の多くは、商業的な大量生産の条件には合いませんが、そのアイデアは、持続可能な考え方や仕事に対し、大きな影響力を持ちます。特に物の外観には大きな意味があり、印象的なデザインは製品を魅力的なものにします。デザインとは、その製品を欲しいと感じさせるものなのです。魅力あるデザインは、持続可能性という視点を超えた広がりを持っています。これまで持続可能性について、全く、あるいはそれほど考えたことのなかった人にも、デザインを通じてアプローチすることができるのです。この意味においてデザイナーは、持続可能な行動や経済活動に関するメッセージを伝える役割を担っていると言えます。

ベルリン・デザインウイークの関連行事で特に興味深い講演を行ったのが、オーテ・イノベーション・サークルのチームです。テーマは、デザインの拠点ベルリンにおける、新素材のためのイノベーション・プラットフォームでした。プラットフォームの目標は、市場に導入する製品にできるだけ早く新しい素材を使うため、イノベーターやデザイナー、クリエイティブな分野の人々の、情報交換をサポートすることです。例えばその時見せられた製品の中には、砂糖で作られたボウルがありました。

Sugar Break, Edible Tabel Ware, Diana Drewes, Berlin

この製品は容器として使うこともでき、またこのボウルを一かけらずつ割って、普通の砂糖としてコーヒーに入れることもできます。

また特におもしろいのは、決まった形の容器の中で、成長の速いキノコを育てるアイデアです。最後に型をはずすと、中で成長したキノコは、例えば椅子などの形のまま残ります。

Mushroom Material, Eric Klarenbeek

同じようなアイデアでさらに完成度を高めたのが、戦後ドイツのデザイナーのなかで最も重要な存在である、ヴェルナー・アイスリンガーの2012年の作品、「チェア・ファーム」です。 「椅子を栽培する」というコンセプトに従い、植物を一定の形の金属の型の中で成長させ、あとで型を取り外します。植物の形は、その後も崩れず保たれます。ここでは、自然が製造のファクターとなります。つまり、自然が物の製造を引き受けてくれるのです。これまでの製品と比べて決定的なメリットは、椅子が100%生分解可能である点です。

すでに書いたように、デザイン週間期間中のベルリンはデザイン一色に染まり、この業界で活動する様々な関係者に注目が集まりました。もう一つの素晴らしいイベントとしては、例えば「夜の部」があり、40以上のデザインエージェントが、それぞれのプロジェクトを紹介しました。さらにベルリン芸術大学デザイン学科の起業講座の展覧会で見た、ある椅子について書きたいと思います。この作品のテーマが、特におもしろかったのです。この椅子には、「Vertraut hart, fremd weich(固いものとして慣れているものが、実は意外に軟らかい)」 という名前がついています。ここでは、物、表面状態、材質などに対して、私たちが持っている感覚がテーマになっています。

一見固そうに見えるものが、実は柔らいかもしれないし、その逆だったりするのです。椅子は尖ったもので覆われていて、拷問用の椅子のようで恐ろしい印象です。ところが、実はこの椅子は柔らかいのです。私も座ってみました。

Vertraut hart, fremd weich, Matthias Wisniewski

ベルリンデザイン週間の1週間は、とてもエキサイティングで、様々な出来事がありました。ドイツのクリエイティブ業界の人達は、その力を示し、ベルリンがデザインメトロポールの名にふさわしい都市であることを改めて立証しました。私は来年のデザインウイークで見られる展開や作品を、今から楽しみにしています。わくわくは、これからも続きます。

著者紹介

Felix Sandberg

シュトゥットガルト近郊の田舎町育ち。15歳のときヴィジュアル表現の形として写真に目覚める。その後すぐに家具を初めて手作りする。大学時代をイエナで過ごし、その間にミュンヘン・ニューヨークなどにも立ち寄る。ミュンヘンでは特に建築に、そしてニューヨークでは日々デザインに没頭し、物の美しさへの情熱と美的感覚を養う。 その定義づけに関わらず、物の見た目・形そのものに興味があり、建築でも家具でも家電でも、外見こそが重要。その姿かたちから良い感覚が自分の中に沸いたとき、初めてそれが私にとってデザインとなり得る。 経営学を学んだ後、繊維業界でインターンおよび勤務経験あり。繊維商社では仕入れ・および販売部にて従事。今年の初めからは自らの情熱にすべてをささげている。

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