心と手を使う仕事 ドイツの芸術家/職人
ゲルハルト・リヒター: 心と手を使う仕事
彼のア卜リエはまさに作業場だ。軍手をはめて、はしごに上り、自作の巨大なパレッ卜ナイフを使って大画面の絵画を制作する。ゲルハルト・リヒターの中には職人と芸術家が共存している。優れた職人が皆そうであるように、リヒターも完登主義者だ。自らの要求を満たさない作品にいたっては、破壊してしまう。彼の眼鏡にかなった作品は、オークションで記録的な高値で落札される。2012年、彼は存命中の画家のなかでは世界最高額で作品が売れる画家となった。自作に対して支払われた金額について、彼自身は狂気の沙汰と見なしている。
荒削りの顔が刻み出されている。シュテファン・バルケンホールの彫刻は背が高くて、ずっしりしている。座はたいてい本体と同じ木材で、一体に形成されている。「この作業にはいくらか人の手を借りてもよいのでは?」と尋ねると「それには及ばない」とバルケンホ一ル。彼に代わって制作できる人はいないという。鑿の一刀一刀が決定打で、絵筆の一筆一筆に精魂が込められているからだ。ベルリンに設置されているバルケンホールの作品に、狭い壁の上で象徴的にバランスを取る男の像があるが、あれほど見事な均衡はきっと心と技が醸し出す妙味を反映しているのだろう。
アンネ・ソフィ・ムター: 大切なのは、単なる音の総和ではなく、楽器間の相互作用とアイデアの発展です
神童ともてはやされるのはきっと楽ではないだろうが、必ずしも害になるわけではない。とりわけ崇拝者がヘルべル卜・フォン・カラヤンであれば、なおさらである。カラヤンはまだ13歳だったヴァイオリニス卜、アンネ・ゾフィ一・ムターをベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演させた。以来、彼女は世界中の大舞台に立ち、グラミ一賞も受賞した。ほんの少しの奇跡と、たゆみない精進の賜物である。ムターは財団を設立して、こうした精緻な音楽を極める道を才能ある若手音楽家にも開いた。彼らはムターのヴィルトゥオーゾと名乗ってコンサートを行っている。
カロリーネ・リンク: 私はストーリーを語るのではなく、人びとが置かれた状況や立場、そして感情を描いている
さりげない眼差し、わずかな身振り、束の間の沈黙。ミュンヘンを本拠に活動する映画監督で脚本家のカロリーネ・リンクの作品では、一言も発せられることなく、あっと言う間にストーリ一が急転換することもある。一方、監督自身はますます喧騒に包まれるようになった。200年、リンクが監督した大作「名もなきアフリカの地で」がアカデミー最優秀外国語映画賞を受賞したからだ。カロリーネ・リンクは、これまで全般的にドイツ人芸術家、とくに女流芸術家としては数少ないアカデミー賞受賞者になったのである。