ハーフの名前のつけ方について Part 4
前回「ヘボン式に悩むハーフ」について書きましたが、今回もまた「名前」についてです。
私は昔から日本語の名前について考えるのが好きなのだが、私が「この日本語の名前がかわいい!」と言うと、ドイツ人に「はぁ?」というリアクションをされることがあります。そう、ドイツ人の耳と日本人の耳は違うようなのです。
たとえば私は日本語で「愛ちゃん」はかわいいと思うのだけれど、ドイツ語で「アイ」は「卵」の意味ですので、ドイツに住んでいる愛ちゃんは皆大変だろうな、と思います。愛ちゃんの綴りはAi、ドイツ語の卵の綴りはEiなので、綴りは違うものの、発音はどちらも「アイ」なので、ドイツ人は愛ちゃんと聞くと「あ、卵だ!」と思ってしまうからです。
あとこれはドイツ語に限ったことではないのですが、「真美ちゃん」という名前もかわいいけれど、やっぱり、これも「お母さん」の意味である Mummy(英語)とか Mami (ドイツ語)に聞こえてしまうので、外国に住む場合、結構説明が大変そうです。
私は日本語の「麻央ちゃん」「真央ちゃん」(Mao-chan)という名前がかわいくて大好きなのですが、これもアジアの事情をよくわかっていない一部のドイツ人は「Mao」と聞くと真っ先に「Mao Zedong (毛沢東)」を思い浮かべる、という事実があります。ドイツ人に「真央ちゃんの Mao と、毛沢東の Mao はまったく別! 毛(Mao)は苗字だし、真央(Mao)は下の名前。字も違う!」と説明したところで、残念ながら相手にはあまり伝わらないのがもどかしい。最悪の場合、一部の田舎者のドイツ人(彼らの一部はいまだに日本と中国の区別がつかない)に「アナタは中国人で共産党が好きだから、子供にMaoとつけたんでしょ!」と勝手に決め付けられるのがオチです (こういう勘違い、怖いですね。こんな時、国際交流はなんて難しいのだろう、と感じます)。
現地の人の勝手な解釈や誤解のために日本の素敵な名前 (愛ちゃん、真美ちゃん、真央ちゃんなど) をつけなくなるというのも理不尽だし、私は残念だと思うのですが、上に書いた名前だとやっぱり色々説明が大変なのは否定できません。
さて、逆のバージョン。日本で誤解されそうなドイツ語の名前についてです。
友達の日独ハーフの女性は、生まれたときに母親 (ドイツ人) が Simone と名付けたかったのだが、父親(日本人)が Simone はドイツだと可愛いけど、日本でカタカナにするとシモネになり、シモ⇒下⇒シモネタというふうに変なものを連想されてしまう可能性があるので、Simone という名前をつける事に反対したらしい。それは確かにそうだ。その結果 Simone とは別の、日本でも誤解されない名前を両親は選んだ。
あとは Nora という名前もドイツではけっこうあるのだが、日本語だとノラ=野良になってしまう。でも、これをちゃんと理解した上で、「野良猫はかわいいから、Noraとつけよう! と」自分の日独ハーフの娘に Nora と付け、「野良ちゃん野良ちゃん!」と可愛がっていた日本人のお母さんもいました。これはこれで楽しいと思いますが、もしかしたら生活の拠点がドイツなので可能なのかもしれませんね。日本国内の小学校に通う場合、イジメの事を考えると、ノラちゃんというのは子供にとって中々キツイものがあると思います。
ちなみにドイツではありませんが、トム・クルーズの娘さんの名前は Suri とのこと。日本語だとスリ=泥棒になってしまい、やっぱり日本で育つ子供にはあまりつけてほしくない名前です (子供がいじめに遭うとかわいそうなので)。
グローバル化が進む今の時代、子供が生まれたら、その子が一生同じ国で生きて一箇所に留まる保障はどこにもないので、子供に名前をつける際、世界全部の国の意味を調べることは難しいとしても、「あの国ではこういう意味なんだな」というふうに、ある程度は下調べをすると安心ですね。逆に言うと、今は名前ひとつ付けるのも難しい時代なのかもしれません。昔なら単純に自分の地域の範囲内で「良い名前」をつければそれでよかった。でも今はちがう。今は人の移動とともに、こっちでは良い名前でも、どこそこの国に行ったら笑われた、という事も実際にあるのですから (注: 名前で人を笑ったりするのは、私は好きではありません。でもそういう現実がある、という事を書きたかったのです)。
日本人とドイツ人に関しては、それぞれ「どの音を聞いて気持ちいいか」という感覚が違うようです。ドイツ人の耳、そして日本人の耳。そう、ドイツと日本、両方の国と接点を持つ人はこの両方の「耳」に配慮しながら色々考えるのです。
以上、名前のつけ方についてPart 4 でした。また次回もどうぞ宜しくお願いいたします。
★コラム「日本人に生まれてよかった」も是非ご覧ください。
サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴 13年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社) など 5冊。自らが日独ハーフであることから「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は月刊誌に続き今回が 2回目である。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。