ハーフと愛国心 Part 2
「オリンピックはドイツと日本、どっちを応援するの?」
日独ハーフはよくこの質問をされる。スポーツ音痴の私が一番困ってしまう質問だ。オリンピックの中でもフィギュアスケートは見るのが好きなんだけど、ドイツ人の選手を応援するとか、日本人の選手を応援する、というよりは自分が「素敵!」と思った選手を応援してしまうので、気がつくとキム・ヨナを応援していたりする。氷の上で優雅に滑る姿に「素敵!!」と見入ってしまった(でも真央ちゃんも好きです)。
ちなみに昔「素敵!」と思っていたフィギュアスケート選手はミッシェル・クワン。とても楽しそうに滑る方で見ていてとても楽しかった。うがった見方をすれば私には愛国心がないのかもしれませんが、意外とみんな「自分が素敵だと思う人」「自分が好きな人」を応援しているものなんじゃないかなあ。
私にはどうしても「愛国心があるからドイツ人選手を応援する」とか「愛国心があるから日本人選手を応援する」行為が、気に入った選手、素敵だと思う選手(たとえばキム・ヨナ選手)を応援する事よりも「高貴」だとは思えないのだ。
そんな感じなので、タクシーに乗って年配の運転手さんに「お客様はどちらの国の方?」と聞かれ、「ドイツと日本です」と答えた後に、「そうでしたか! 日独伊でしたが、次回はイタリア無しでやりましょう!」と言われても、愛想笑いするのが精一杯だったりする。日独で一緒にまた戦争? あり得ないから! もしも、ドイツと日本がまた一緒に戦争をしたら、私は真っ先に第三国へ逃げます。現実問題はさておき、気持ちとしてはそんなところでしょう。では、日本対ドイツで戦争をした場合は…? これも、第三国へ逃げます。
「愛国心」っていう言葉、私にはやっぱり決定的過ぎるみたいです。前回の連載に書いたような日本とドイツの両方の国の好きなモノや好きな事はたくさん浮かぶのだけれど、そして「好き」という気持ちもあるのだけれど、でも「あなたはドコソコの国の出身なんだから、ちゃんとその国を応援しなさい。愛しなさい」的な、何かを強制される気持ちにさせられるものにはどうもついていけないなあ。
私が考えていること。それは例えば愛国心の強い日本人、愛国心の強いウガンダ人、愛国心の強いドイツ人が対面したとして、それは上手くいけばお互いが「それぞれが自分の国の良いところをアピールする」という事につながるけれど、悪い方向へ行くと「ワタシの国のほうがアナタの国より優れている!」となってしまいやすく、そうなると愛国心は危険への第一歩なんじゃないかな。それよりも、自分の国のプラス面とマイナス面を認めて自分の中で消化してから、相手の国の事も偏見を持つこと無く見れたら、昔ながらの所謂「愛国心」こそ育たないけれど、地球が長い目で平和になるんじゃないかな、なんて思う。みんながみんな「ウチの国が一番!」と思っていると、お互い平行線をたどるしね。
だから個人的には日本の一部の小学校で実施している『子供に愛国心を持ってもらうための授業』というのには疑問を持っている。なんだか多くの事に配慮していないと感じるからだ。だって、例えばそのクラスに外国人の子供がいたら、「愛国心」をどう教えるの? そしてそのクラスにハーフの子供がいたら、「愛国心」をどう教えるの? 日本は外国より素晴らしいと教えるの? それとも、どこの国の愛国心も素晴らしいものだと教えるの?思うに「学校で子供たちに愛国心を教える」という考えが出てくる時点で「そのクラスには外国人がいない。ハーフもいない。クラスには『生粋日本人』しかいないはず」という考えが前提にある、というふうにしか私には思えないのだ。
「愛」という字が入る時点で「気持ち」が関係してくるけれど、気持ちは個人の自由だから授業で教えられるものでもないと思うのですね。
子供の時に色んな経験をして、大人になってから愛国心というテーマについて考える事は意義あることだと思うけれど、子供に学校の授業で教える必要があるのかな。
なんだか色々書いてしまったけれど、私はたぶん「自由」が一番好きなんだと思う。何を感じるか、どういう考え方をするか、ということにおいて自由な状態であること。選択の余地があること。そして愛国心に関しては欲張りであってもいいと思う。この国もあの国もあの国も好き。色んな国の名前がどんどん出てくることが私の理想の「愛国心」かな。そんなの愛国心ではない、国を一つに絞れ、とお叱りを受けそうですが(笑)。
でも色んな国が好きだということが21世紀には合っていると思うし、グローバル化していく今の時代にはふさわしい形なんじゃないかしら。
サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴12年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社) など5冊。自らが日独ハーフである事から、「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は月刊誌に続き今回が2回目である。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。