ハーフだと不便なことPart2
「ハーフだと不便なこと」Part2です。前回は区役所、インターネットカフェに地方のファーストフード店、と私自身の体験を書きましたが、今回は知人のハーフ達に取材したことをまとめました。今回も引き続きハーフの現実と向き合います。では、前回の続きから。
ハーフだと不便なこと: その4
~職務質問されるハーフ~
頻繁に職務質問をされてしまうハーフがいる。日本育ちで現在東京に住んでいる日独ハーフの男性(日本国籍)なのだけれど、東京都内の道を歩いていると警官に呼び止められることが多いらしい。職務質問をされ外国人登録書の掲示を求められるのだが、日本国籍のため外国人登録書はそもそも持っておらず、「持っていない」と言うと、「パスポートを見せてください」と言われるのだそうだ。観光客でもない限りパスポートはそう持ち歩くものでもないためこれも携帯していないのだが、そうすると納得してもらうまでに色々な質問に答えなくてはならず毎回時間と手間がかかるらしい。
ハーフで外国人風の風貌だと、たとえ日本育ち、日本国籍であっても、職務質問をされる人が結構いる。これもまたハーフの現実だ。ちなみに具体的な数を調査はしていないのだが、数人に話を聞いたところ、私の印象は「女性で外国人風の容姿の人」よりも「男性で外国人風の容姿の人」のほうが職務質問をされやすい傾向があるということ。ハーフのテーマとは無関係だが、もし女性よりも男性のほうが職務質問されやすいのだとしたら、これもある意味問題ですね…
ハーフだと不便なこと: その5
~地方都市の銀行にて一悶着のハーフ~
友人の弟の話。彼はイタリアと日本のハーフで福岡に住んでいる。イタリアにいたのは小学校低学年まで。それ以降はずっと日本なので、彼はイタリア語はできず日本語のみを話す。標準語よりも博多弁が得意。日本国籍を所有している。顔や体格は欧米人風だが、日本で過ごした時間のほうがイタリアで過ごした時間より長い事もあり、心は完全に日本人。
そんな彼(Bさん)が先日、福岡市内のとある銀行の窓口で「口座を作りたいんですが」と申し出たところ、窓口の女性が「少々お待ちください…」と言い、そのまま銀行の奥へと消えて行ったらしい。Bさんが「あれれ?」とかなりの時間待っていると、しばらくして奥から男性銀行員が現れた。その男性社員は「別室へご案内いたしますので奥へどうぞ」と言ったらしい。Bさんは「?」と思いながら奥の別室に入り腰掛けると、その男性銀行員から恐縮した感じで「大変申し訳ございません」と頭を下げられたらしい。Bさんがますます「??」状態になったところ、続けてその銀行員はこう言ったらしい。「当行ではですね、大変申し訳ないんですが、外国人ですと口座は開設できないことになっております」
そこで彼はキレたらしい。「いえ僕は日本国籍なんですが!」と。
そこで「あ…」となり、再度頭を下げられ「それは大変失礼いたしました」と謝ってくれたらしい。Bさんはお詫びにメガネ拭きとティツシュをもらったらしい。もちろん口座も無事に作れたらしい。でも彼はその一件で一日不機嫌だったそうだ。
しかしこの件、なにも即、銀行の別室へ案内しなくても最初の段階で窓口の銀行員が「失礼ですが、国籍はどちらですか?」と事前に確認をとっていれば、彼が日本国籍であることが確認できたはずだし、そうすればお互いに不愉快な思いをせずに済んだはずだ。
東京よりも地方のほうが更に「外国人の顔をした日本人」が少ないので、銀行としても対応に慣れていないのかもしれないが、改善を期待したいところだ。
ハーフだと不便なこと: その6
~ローン審査でミドルネームが仇となるハーフ~
ハーフはよく「(横文字の) ミドルネームはあるの?」と聞かれるが、この「横文字のミドルネーム」がネックになるケースもあることは実はあまり知られていない。
昨年、東京でマンションを購入した、イタリアと日本のハーフで日本国籍の友人の話。マンションを買うにあたって某大手銀行でのローン審査を受け、全ての書類が通り、さあこれでいよいよローンを組む手続き完了! というタイミングで、その某大手銀行の人から彼女の携帯電話に着信があった。
「書類は全部通ったはずなのに何だろう?」と思いながら電話に出たらしいが、話を聞いてもサッパリ何の話だかわからない。銀行の人の話し方が曖昧で何を言おうとしているのか、彼女は趣旨が最初わからなかったという。というのも、その銀行マンは「えーとですね、○山さん (そのハーフの名前) は14歳で来日されたとの事ですが、その前はどちらの国にいらっしゃったんですか」と聞いたらしい。彼女は14歳になるまではイタリアにいたのだが、そもそも14歳の前はどこの国にいたのか、なんてことはあまりローン審査に関係のない事なので、頭の回転の早い彼女は「イタリアです」とは答えずに「あのー…どこの国だったらローン審査的にはオッケーなんでしょうかね?『アメリカ』だったら大丈夫なんでしょうかね? たとえばこの国の場合は銀行さんとしてはオッケーで、あの国の場合はアウトということなんでしょうか?」と嫌味たっぷりに聞き返したんだそうな(笑)
おそらく図星だったようで、その担当者はあわてて「いや、そのですね…どこの国ならオッケーという話でもないんですが、そのですね…(モゴモゴ)」となんだかハッキリしない。そして電話でしばらく意味不明な会話が続いた後、今度はその担当者が「あのぅ…○山さんは現在は●●社(日本の会社)にお勤めとの事ですが、それ以前にいらした会社は、、、えー、こちらは■■社 (外資系) ですね? えー、、、こちらはその…業種は…?」と聞いてきた。彼女は「はい、こちらはですね、■■を扱っている会社です」と答えたらしい。すると、担当者は「あ、 ■■ですよね…。でも●●社(日本の会社)とは全く違う分野ですよね…?!」とまたまたワケのわからないリアクション。
たしかに彼女が以前勤めていた外資系の会社と、ローン審査の当時勤めていた日本の会社は業種が全く違うのだけれど、この銀行員が電話で何を確認したいのか全く読めなかったという。
ローン審査の際に提出した書類に関しては「通った」と連絡が来たはずだし、この人は電話で何を「確認」しようとしているのだろう…? そう思いながら話を聞いていると、次の質問が来たらしい。「あのぅ…○山さんは今後海外に行かれる予定は…?」
そこでハッキリわかったらしい。自分は不審がられているんだ、と。銀行としては、ローンを組まれた後に海外にトンズラ(言葉が悪くてすみません)でもされたら困るので、こういう事を聞いているのだ。彼女は「そうか、この人は私に外国の血が入っているから不審だと思って、そういう詳細を『確認』したがってるんだ」と確信したらしい。それと同時に「私は日本国籍だし、この担当者には直接会っていないのに、なぜ私に外国の血が入っているのが分かったんだろう?」と不思議に思ったという。
しかし、そのまま電話で担当者の話を聞いていくうちに、原因はどうも書類に記載されていた「ミドルネーム」にあったらしい、ということがわかった。彼女は「○山ミレーナ美香」(本人プライバシーのため仮名)というのだが、どうもその「ミレーナ」が引っかかったらしい。パスポートにも戸籍謄本にも「○山ミレーナ美香」と書いてあるので、それを見た担当者が「おやっ? 外国人?」と不審に思い電話をかけるに至った、という事らしい。結局、彼女は自分が14歳までイタリアにいたこと、今後海外に行く予定は今のところはないことなどを正直に全て担当者に話したのだが、最後まで納得のいくところまで戦わないと気が済まないので翌日銀行に書面にて苦情を入れた。
「日本国籍であるにも関わらず、ミドルネームがあり外国の血が入っているという理由で、電話で不審者扱いされ差別的な質問を受けた事は誠に遺憾です」といった内容の手紙をその銀行に送った。後日、その銀行の担当者が菓子折りを持って謝罪に現れたんだそうな。
彼女は2つの理由からこの苦情の手紙を書いた、と話した。1つ目は、自分が理不尽な理由で不愉快な思いをしたから、という「自分」の理由。2つ目は、「今後、『横文字の名前を持ちながら日本国籍を持つ人』そして『容姿は外国人風だけれど日本国籍を持つ人』は確実に増えていくので、そのたびに銀行でイチイチ不審者扱いされたのでは、これからこの銀行とかかわる人達も嫌な思いをするから」という「他の人やこれからの事」を考えてのことだ。
これらのエピソードを通してハッキリわかること。それはハーフは日本国籍を持った法律上「れっきとした日本人」であっても、各場面において決して「生粋日本人」と対等に見られているわけではない、ということだ。そして「外国の血が入っている自分」が「不審がられる」事が「普通一般の日本人」よりも多いということもまた現実なのだと痛感させられるエピソードのように思う。
名前に関しては、ミドルネームや横文字の名前を「カッコイイ」、「素敵」と見る向きもあるようだが、現実はなかなか厳しかったりする。
某大手銀行の例を見ても分かるように保守的な考え方をする人達の中には「外国名(たとえばミドルネーム)はイコール不審」という見方をする人がまだまだいるのだ。そしてそういった「お上」の価値観と、ハーフは人生の節目節目で向き合っていかなければいけないのが実情だ。
リスクは避けたい、ローンでも組まれて外国に逃げられては困る、という銀行側の考え方も個人的に分からなくはないのだが、やはり「外国の血=不審&リスキー」と色眼鏡で見てしまうのは21世紀にふさわしくないと強く思う。
ちなみに当の彼女はこのハプニングを乗り越え、今、念願の「自分のお城」で幸せに暮らしているので、めでたしめでたしだ。
今回のこれらのエピソードの数々、多少強烈な印象を受けたかもしれないが、現実のことなのであえて書いてみた。
次回はまた明るめにいきたいと思います。皆様どうぞこれからもお付き合いくださいませ。
サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴 13年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社) など 5冊。自らが日独ハーフであることから「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は月刊誌に続き今回が 2回目である。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。