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ハーフが遭うイジメ「クジラを食べる日本人って最低!」

ハーフが遭うイジメ「クジラを食べる日本人って最低!」

© aa6610atw (flickr.com)

ハーフが遭うイジメ「クジラを食べる日本人って最低!」

by 動物愛護精神の強いドイツ人 筆者:サンドラ・ヘフェリン



ドイツでのイジメに関しては「チン・チャン・チョン」、「いきなり手を合わせてお辞儀」、「目をビーっと吊り上げる仕草&Schlitzaugeという蔑称」、そして「日本人ってサルの脳ミソを食べるんでしょ?日本人って犬を食べるんでしょ?」について書いてきました。



・・・今回のテーマは「捕鯨」です。ドイツを含むヨーロッパでは動物愛護の精神が強く、「捕鯨をする日本人」が批判の対象になっています。そのため、ドイツに長く住む日本人や日独ハーフは、嫌でもこの「捕鯨」のテーマに向き合わされます。ドイツ人とかかわっていく中で、「捕鯨についてどう思うか」とドイツ人に聞かれることが少なくないからです。その都度、自分のスタンスを説明しなければなりません。



実は私はこのことを非常に問題だと思っています。何が問題かと言うと、日本人を見つけ、当たり前のように「捕鯨についてどう思うか」と意見を聞きに行くことが問題だと思っています。たまたま会ったイラン人に、「原理主義についてどう思うか」と聞いたり、たまたま出会った中国人に対して「中国での死刑の多さについてどう思うか」と聞くのもある意味問題だと思います。ドイツ人でない人がドイツ人に対して「ヒットラーはやっぱり好きですか」と聞くのと同じレベルの失礼さ加減かと。



自分がその「国」(イランや日本、中国やドイツ)に対して持っている疑問を、そのまま「個人」に対してぶつけるのは問題だと思っています。「個人」がその「国」、その国の法律、その国の方針を背負っているわけではないからです。個人のイラン人や個人の日本人はこんな質問をされて、いい迷惑です。



ところが、ドイツ人の一部にはこのあたりの事に鈍感な人がいて、知的階級のドイツ人も中国人に対して「中国の死刑についてどう思うか」、そして日本人に対しては「日本が捕鯨をしていることについてどう思うか」とやってしまいがちです。



その日本人が「私は捕鯨に反対しています」と言うと、「あの人はAusnahme-Japaner(例外的に捕鯨に反対している日本人)だ」とし、そして「私は捕鯨に賛成しています」と言うと、「やっぱりあの人は(悪い意味で)日本人だ」とやるわけです。



また、元々東洋人や日本人の事を快く思っていないから、こういうシビアな質問を個人の日本人や日独ハーフにぶつけている側面もあるようです。いい大人が「チンチャンチョン!! アジア人は目が細い。やーい。」とイジメるのはみっともないけれど、「クジラ問題」「捕鯨」関連の質問を日本人にぶつければ、知的なフリをしながら相手に嫌がらせをすることができるというわけです。



「アナタは外人だから嫌い」というのでは聞こえが悪いけど、「アナタの国はクジラを食べていて残酷だから嫌い」と言えば聞こえが(ドイツ的には)良い、ということですね。



冒頭で書いたようにドイツでは一般的に「動物愛護」の精神が大変強く、多くのドイツ人は「動物を大事にしましょう」という考えです。捕鯨を理由に外国人(日本人)を叩くと、もっともらしく聞こえるため誰もあまり反論できない、という点は無視できないでしょう。



大人同士の付き合いの中でこういった「チクチク」があるので、子供も当然これを学習してしまっています。そして子供同士で「クジラ」を使ったイジメをします。「クジラ」を使えば大人に諭されること無く日本人の同級生を簡単にイジメることができるというわけです。そのため、複数のドイツ人の児童が日本人または日独ハーフの児童を囲み「クジラを食べる日本人は残酷!日本人って最低!」といじめることが少なくありません。



そのように言われた時、クジラの事を詳細にわたり説明しても分かってもらえない事も多いけれど、大事なテーマですし、自分なりの反論の仕方を身につけておく必要はあるかと思います。



例に漏れず、私自身もドイツ人から「日本人がクジラを食べる事について、どう思うか。」「捕鯨についてどう思うか。」と聞かれるシチュエーションが少なくありません。というか、少し仲良くなると、スグこの手の質問が来ます(苦笑)



でも私はクジラを食べるのは昔も今も日本人の食生活の一部なのですから、それを「クジラとは無縁の食生活を代々おくってきた文化圏」(例えばドイツ)の人々にとやかく言われる筋合いはないと思っています。



この事を言うと、動物を愛するドイツ人に必ず「クジラは絶滅の危機にさらされているのに、貴方は何も分かっていない!」と言われますが、その論理を人間に置き換えてみるとどうでしょう?絶滅の危機にさらされている国民や人種は大事にし、逆に絶滅の危機にさらされていない人口の多い国(例えば中国)の人は大事にしなくて良い、という事になるのではないでしょうか?



豚や牛や鳥は絶滅の危機にさらされていないから食べても良くて、クジラは(一部の人達によると)絶滅の危機にさらされているから食べてはいけない、というのは誠におかしな論理だと私は思っています。



あとドイツでよく聞くのは、「クジラは知能が高く頭の良い動物だから食べてはいけない。」という主張。豚や牛や鳥は頭が悪いから食べてよくて、クジラは頭が良いから食べてはいけない、というのも個人的には全く理解できない論理です。だいたい豚が頭が悪いだなんて、豚に対する偏見ではないでしょうか。



論理だけ聞くと、クジラは知能が高いだとか、クジラは絶滅の危機にさらされている、などといったもっともらしい主張が並ぶのですが、その根底にあるのは「自分達が食べていないものを食べている人は野蛮人だ」という考え方です。この考え方のほうがよっぽど問題だと思うのですが。



「食文化は国によって違う。どの国の食文化も尊重しよう。」という重要なファクターがすっぽり抜けている、と感じるのは私だけでしょうか。



こんな事を書くとドイツ人に反感をかうかもしれませんが、一般的な傾向としてドイツ人はグルメではありません(例外はいますが)。自分達がグルメでないなら、グルメでないなりに単調な食生活をおくればよいと思いますが、色んなものを食べる国の人達に「野蛮だ、残酷だ、絶滅の危機がなんたら」と理論武装をして責めるのはいかがなものかと思います。そこにはドイツ人の大好きな隣人愛(Nächstenliebe)のかけらもありません。それとも隣人愛の対象は日本人よりもクジラという事なのでしょうか。



私にはこの「クジラ問題」、元々「豚&牛&鳥以外の動物を食べるなんて気持ち悪い!」と感じていた人々が、(少なくともドイツ国内では)誰もが賛成するような「クジラを食べるのは残酷」というちょうどいい「建前」ができたことで、そこに便乗し日本人を叩いているというふうにしか見えません。



それに、先ほど「豚が頭悪いだなんて、豚に対する偏見ではないでしょうか?」と書きましたが、もう一つ書かせてもらうと、ドイツ語という言語には「鳥」をバカにする言い回しが多く見られます。「鳥」(Vogel)と関係していると思われるドイツ語の動詞でハレンチな意味合いのものもありますし(あえてここには書きません)、「あの人は狂っている。あの人はバカだ。」という時に“Er hat einen Vogel.“(「彼は鳥を飼っている」)という言い方をしたりもします。



捕鯨が残酷だ日本人は残酷だ、と言っている人には、ぜひ「ドイツ人は動物を愛していると言いながら、鳥をバカにしている。鳥がかわいそう。鳥に対してあんまりだ。あんまりな言語&あんまりな国民性だ。かわいそうな鳥鳥鳥。」と、皮肉を交えて言って差し上げましょう。



とにもかくも、私の独断と偏見ですが(独断と偏見」だなんて、あのデヴィ夫人の「デヴィの独り言 独断と偏見」みたいですね。笑)、私から見ると「クジラを食べる日本人は残酷」だとか、「捕鯨をする日本人は残酷だ」などと言うのは、知的になりたいけど知的になりきれていない人達のバカ騒ぎに見えます。



「騒ぎ」の背景には、「動物を愛する」という精神以上に、「クジラを食べるあなたがた野蛮人とは違って、我々は動物を大切にしているんだぞ!」という強烈なアピール&イジメ精神を感じます。



「クジラ」を使って自己実現し団結をし気持ちよくなっているのかもしれません。・・・この現象、「クジラ右翼」とも言えるかもしれませんね(笑)



「イジメ」に話を戻すと・・・・



この問題を観察した上で思うのは、他の国の人々、そして容姿が違う人々に対する偏見の一つに「『自分達には馴染みのない食生活』への蔑視」が含まれているということです。



というわけで、皆さん今度Walfischクジラがなんたら・・・・と言われたら、先ほど申し上げたように「ドイツ人は鳥をバカにしている!頭が悪い人に対して“Er hat einen Vogel.”だなんて、鳥があまりにもかわいそうだ、残酷だ、鳥の気持ちを思うと涙が出る・・・・」と大げさに言ってあげましょう♪



★「日経プレミアPLUS VOL.1<誕生!新・新書>」(日本経済新聞出版社)の72頁~85頁で「ユーロ危機」について、イタリア人、スペイン人、ギリシャ人が座談会をしています。司会はドイツ人の私・サンドラが務めさせていただきました(笑)皆さんぜひ本屋さんでお買い求めください。




YG_JA_2718[1]サンドラ・ヘフェリン



ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴15年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社)、近著「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) など6冊。自らの日独ハーフとしての経験も含め「ハーフ」について執筆している。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、執筆、散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。



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サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン