ハーフがあうイジメ「目をビーッと吊り上げる仕草」
ドイツでのイジメに関して、前々回は「チンチャンチョン問題」について、前回は「手を合わせてお辞儀」について書きました。
これらに加えて、ドイツに住んだ事のある東洋人または東洋系ハーフが経験するのが、相手に「目をビーッと吊り上げる仕草」をされる、というイジメです。
ニヤニヤしながら、そして目をビーッと吊り上げながら、「中国人(以下の※マークで説明)はこーんなに目が細いんだー。みんな Schlitzaugen だー。」と、それはそれは楽しげにからかってきます。Schlitzaugen とは、東洋人の目の形をバカにした蔑称です。目が細い事をバカにしているのです。
※教養のない一部のヨーロッパの人々や、一部のいじめっ子気質のヨーロッパの子供達は「東洋人や東洋系イコール中国人」だと思っています。この手の人々は、東洋人や東洋系ハーフが、実際はどこの国出身なのかには基本、興味がありません。東洋人は全員中国人です。困った問題です。
ちなみに、この「目をビーッと吊り上げる仕草」や Schlitzaugen という言葉を使用することについて、ドイツでは「これは『いじめ』ではなく『からかい』だ」「我々は冗談を言いたかっただけだ」(Wir wollten nur Spaß machen.)と言う人が少なくありません。イジメをした本人は問い詰められたら、もちろんそう言いますし、悲しいのは、いじめられた東洋人や東洋系の子供がドイツ人などの大人に相談をしても、同じ答えが返ってくることが多いです。“Die Kinder wollten nur Spaß machen.“(子供達は冗談を言いたかっただけよ)と。
それに比べ、ドイツの白人の子供が黒人の肌の色について何か言った場合は、激怒するドイツ人の大人が多いのですから、アジア系としてはなんだか理不尽な気がします。どうもドイツの一般的な感覚として、「アジア系は、ちょっとぐらいからかってもいいんじゃないの?」という感覚がまかり通っているようです。
他の人種に対してよりも、アジア系に対する「からかい」はなんとなく許されてしまっている雰囲気がドイツにはあります。東洋人や東洋系がとても低く見られているのではないかと悲しいです。
そのため、ドイツ国内の小学校などの東洋人や東洋系の子供へのからかいやいじめは、多くの場面で「過小評価」されてしまう傾向にあります。「そんなのはたいした問題ではない」というわけです。
ですが、はっきり言ってこれはイジメだと思います。
小学校で同級生などに、この仕草(目をビーッと吊り上げる仕草)をされ、それが深刻なイジメに発展する事もありますが、まれに教養のない大人が道端でアジア人やアジア系の人を見かけ、この仕草をしてくる事もあります。そしてどこの国でもそうですが、酔っ払いの多い場は要注意ですね。
そのような「目をビーッと吊り上げる仕草」そして Schlitzaugen という蔑称に対して、「ドイツ人は東洋人の目が珍しいからよくわからなくて言ってるだけなんじゃないの?」というふうに、優しい見方をしている日本人もいたりします。たしかに「珍しさ」からこういうからかいをやってしまうドイツ人もいるのかもしれませんが、それと同時に蔑視の感情の入ったイジメ感覚でこの手の「ビーッ」をやってしまう人が実際には多いです。
先日、ある日本人女性から「私はタレ目なのに、ヨーロッパでは『東洋人は目が吊り上がっている』とひとくくりにされてしまうのが不思議」と言っていました。たしかにそうですよね。目には色んな形があります。
でも残念なのは、ドイツ人に「日本人には、吊り目だけじゃなくて、タレ目だっているよ」と説明をしたところで、今度は新たにはやしたてられる(つまり目を「垂れ下げる仕草をされる」) 可能性が高いということです。なので、説明をするだけムダかもしれません。
ちなみに、日本では「一重まぶた」「二重まぶた」という言い方がありますが、ドイツにはそういう認識は無く、東洋人や東洋系は全員 Schlitzaugen だという認識がまかり通っています。ですので、「私の目は二重であるから、Schlitzaugen (細い目) ではない」と説明を試みようとする日本人をときたま見かけますが、目の形に本当に興味のあるドイツ人ならともかく、東洋人や東洋系を低く見ている (一部の) ドイツ人に対しては、目の形がどうこう、と説明したところで、あまり話に関心は示してくれないのが残念なところです。
ドイツやヨーロッパで生活した事のある東洋人ならば必ず1度や2度、道端や電車でこの仕草をされたり、子供の場合は学校で同級生にこの仕草や Schlitzaugen を連発されていじめられたり、という経験があると思います。
全体的な傾向としてドイツにいる東洋人や東洋系は「おとなしい」ことがこういうイジメがまかり通っている要因の一つかもしれません。誰かドイツで大々的に裁判でも起こしてくれたら、人々の認識も変わるかもしれませんね。目を吊り上げる仕草や、Schlitzaugen という言葉が使用禁止になれば一番なんですけどね。
なんだか長い闘いになるような気もしますが気長に語りかけていきたいと思っています。
今後もよろしくお願い致します。
★私の本「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)をぜひ読んでみてくださいね。本の感想をこちらのコメント欄に書いていただくのも大歓迎です!
サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴12年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社) など5冊。自らが日独ハーフである事から、「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は月刊誌に続き今回が2回目である。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。