タトゥーに見る文化の壁(その1)
前回、国際交流について書いた。人は皆、自分自身が育った国のマナーや価値観に必然的にとらわれているため、自分とは違う文化圏で育った人と交流するのはなかなか難しい事もある、と書いた。例えばドイツでは歩きながらリンゴを食べるのが普通だけれど、日本人はやっぱりビックリしたりする。ドイツでよく見かける、女性があぐらをかいて地面に座っている図も、日本人から見たらギョッとすることがあるらしい。
つまり、「国と文化が違う」人と付き合うということは、「相手の行いにギョッとする」ことの連続だったりするわけです。
ところで私が最近一番「文化の違い」を感じているのは…タトゥーである。
日本に来たばかりのドイツ人によく「なんで日本の温泉はタトゥーがダメなの??!!」と怒り気味に聞かれるからである。
ドイツを含む欧州では今タトゥーが大流行である。昔から流行ってはいたのだけれど、最近はドイツを含む欧州諸国の外務省だとか公務員などの所謂「お堅い」職業の人でもタトゥーをしている人がいる。なんというか、20年前のヨーロッパであれば、タトゥーはそういうお堅い職業の人にまでは広まっていなかったのだが、今はそこまで広まってきている、ということだ。
よってヨーロッパには、ワイシャツを着ていると見えないけれど、ワイシャツをまくり上げた腕にはでっかいタトゥーの絵を入れている公務員も普通にいるわけだ。
ところが皆さんご存知のように、日本の温泉や銭湯の多くは「入れ墨・タトゥーをされている方のご利用・ご入場はお断りしております。」としている。
また日本の銀行や商社など、タトゥーを入れていると入社できないところもある。
そして、タトゥーを入れているドイツ人達はこの事(タトゥーを嫌う日本の温泉や会社)にご立腹なのであった。
「なんで日本人はタトゥーが嫌いなの?」と。
私は説明を試みる。「日本ではヤクザや暴力団に昔から入れ墨の習慣があるので、健全さを目指す施設や組織は、暴力団に否定的であり、同時に入れ墨にも否定的なんですよ」と。
でもだいたい私の説明は全く理解されません(笑)ドイツ人に即、「でも自分は暴力団ではない!!!」と反論されます。
分かってます。私は分かってるし、おそらく日本の温泉や会社組織だって、入れ墨やタトゥーを入れたドイツ人が暴力団関係者でない事は分かっているのだが、なんというか暴力団が入れ墨を入れている歴史が日本には昔から長い間あるため、日本ではタトゥーや入れ墨の印象が決して良いものではない、したがって云々…と私はまた長い説明を試みるのでした。
そして語って語って語るも、どんなに語り合っても、両者(温泉や日本の会社組織VSタトゥー入りのドイツ人)は、分かり合えない事が判明するのでした。
タトゥーの例を挙げるなんて「???」と思う人もいるかもしれないけれど、ぶっちゃけ、これが異文化交流の難しさだと思う。
ところで冒頭に書いたとおり、ドイツを含む欧州でタトゥーは大流行だけれど、大流行なだけに、「漢字のタトゥー」を入れているドイツ人や欧州人も多く、これがまた最近の私の悩みのタネ、そして笑いの対象なのである。
だってですよ、聞いてください。
ある人の腕には「歯医者」って刻まれていたんですよ!そりゃ、もう見たらプッと笑っちゃいます。いくら「歯医者」の入れ墨を入れているドイツ人がコワモテであっても。
でもでも「歯医者」なんていうのは、まだいいほう。
あるドイツ人は「ほ~ら見て見て。コレって日本語で『(俺って)クール』って意味なんだろ?」とヒョイと袖を捲り上げるのだが…
そこには「冷え性」の字が。
爆笑・・・したい。けれどグッとこらえる。タトゥーは簡単に消せるものではないので、笑うのは申し訳ない気がする。でも本人の前で爆笑をこらえるのがやっと。こらえて、こらえて…。この「冷え性」のタトゥーを目にしたほかの日本人も、おそらく爆笑をこらえ、真実を伝えたいと思いながらも相手に気を遣って言えない、そんなムズムズした花粉症のような気持ちを抱えているにちがいありません。
『歯医者』というタトゥーに関しては、漢字の意味を確認しないまま、(欧米人から見た)漢字の見た目だけで「カッコイイ!」と『歯医者』と腕に彫ってしまった感がありますが、『冷え性』に関しては、もしかしたら日本人が「あ?クールは冷え性だよ(ひひひ)」と、イジワルしちゃったのかな? なんて想像してみたりもします。
しかしですね、冷え性なんかよりも「有給休暇」と彫ったほうが日本人に対して「有休を増やせ!」と訴えかける事もできる(?)し、素晴らしい4文字熟語(?)だと思うのですが、皆様はどう思われますでしょうか。
タトゥーの話、次回に続きますのでお楽しみに。
サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴15年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社)、近著「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) など6冊。自らの日独ハーフとしての経験も含め「ハーフ」について執筆している。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、執筆、散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。
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