ああ、翻訳はむずかしい「敬愛なる女会長殿」
通訳や翻訳をしている人ならば誰でも「どこまでを直訳にし、どこからを意訳にしようか」と迷ったことがあると思う。
日本語とドイツ語の翻訳の場合、「ドイツ人が翻訳をしているか」または「日本人が翻訳をしているか」(※)で、だいぶ翻訳の雰囲気がちがってくるみたい。
先日笑ってしまったのは、ドイツ語の文書に “Sehr geehrter Herr Präsident“ と書いてあったのだが、その日本語訳が「敬愛なる会長殿」になっていたこと。
「敬愛なる会長殿」・・・う~ん、間違ってはいないけど、ちょっとクドイかな。それに「敬愛なる」って、小説ならまだしも、ビジネス文書にはどうなのかしら?なんて思ったのでした。
こういう場合、宛名は「敬愛なる会長殿」ではなく、ふつうに「会長」で良いと思いますがね。
さらにさらに笑ったのは、ドイツ語の文書に “Sehr geehrte Frau Präsidentin“ と、女性の会長宛のものがあったのだが、その日本語訳が「敬愛なる女会長殿」となっていたこと!(笑)
「女会長殿」ねえ・・・・。
さっそくその文書をもって翻訳をした人に、「『女会長殿』というのは日本語だとクドイし、宛名は『会長』だけで良いかと思います。」とお伝えしたところ、ドイツ人に「いやいやいやいや!性別はハッキリさせないと!だから『女会長殿』!」と思いっきり反論されたのでした(笑)
さらには、苗字入りの文書もあり、そこにはドイツ語で “Sehr geehrte Frau Präsidentin Yoshida“ と書かれていたのですが、その日本語訳が「敬愛なる吉田女会長殿」だったのでした。・・・・ごめんなさい、これを見た時、爆笑してしまいました。でも翻訳をした当人(ドイツ人)にはその可笑しさがわからなかったようで、なんとも歯がゆい思いをしました。
それにしても、言葉のニュアンスを説明するのはなかなか大変ですね。そしてそのニュアンスを相手に分かってもらうのは、もっと大変です。
ちなみにドイツ語では性別がハッキリしていますから、性格がマジメなドイツ人がドイツ語⇒日本語の翻訳をすると、どうしても「性別をはっきりさせたい!」という衝動に駆られるようなのです。それもあり、「吉田女会長殿」という翻訳になってしまうのですね。
さて、“Sehr geehrte Frau Präsidentin“ は冒頭の通り当初は「敬愛なる女会長殿」と訳されてしまったわけですが、それを見たダジャレ好きの別のドイツ人(日本語に精通している人)が、こう言いました。「『敬愛なる女会長殿』の『殿』は男性の感じがするから、Donna(イタリア語でLadyの意味)にひっかけて、和訳を、「敬愛なる女会長ドナ」にするのは、どう?」と。・・・「殿様」の女バージョンは「ドナ様」ってか?!・・・大笑いしてしまいました。
なんだか、ずいぶんマニアックな話になってまいりましたが、こういう語学系のジョークも楽しいですね。
それにしても思うのは「日本語は難しい難しいと言われているけれど、コト性別に関しては日本語は本当に楽だなあ」ということ。
だって「鈴木様」が女性か男性か分からなくても、手紙の宛名は「鈴木様」でいいんですもの。英語やドイツ語はMs.やMr.にしたり、FrauやHerrにしないといけないので、相手の性別が分からないことには手紙も書けないのですね。
・・・今回は言葉ネタでした。皆さんもこういう経験、ありますか?
※
「『ドイツ人が翻訳をしているか』または『日本人が翻訳をしているか』」と書きましたが、厳密には「『ドイツ語を母国語/母語としている人が翻訳をしているか』または『日本語を母国語/母語としている人が翻訳をしているか』」ですね。本文中に説明するとクドくなるので、こちらで補足いたします。
P.S.
「女」のドロドロした部分について書いてみました。実は、「女同士の付き合いは難しい」は日本のみの問題ではありません。 ドイツでも過酷(?)な女の戦いが繰り広げられていたりします。たとえば、こんなふうに。 「女の敵は女?」
サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴16年、著書にベストセラーとなった「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社)のほか、「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ」(共著 / メディアファクトリー)など計7冊。自らの日独ハーフとしての経験も含め「ハーフ」や国際交流について執筆している。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、執筆、散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。
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