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ベルリン ドイツで羽ばたく日本人

ベルリンのインターナショナルなヘアサロンで働く 長谷川倫子さん

美容師という職業には、技術を武器に海外でも活躍できそうなイメージがありませんか? ベルリンで活躍している日本人美容師さんも増えていますが、実際はどうなのでしょうか。ベルリンのサロンESHK(エシュク)でアシスタントとして働いている長谷川倫子さんを訪ねました。

長谷川さんが働くベルリンのサロンESHKは、ロンドンとベルリンで展開

長谷川さんが働くベルリンのサロンESHKは、ロンドンとベルリンで展開

サロンではレコードも販売。試聴コーナーもあり

サロンではレコードも販売。試聴コーナーもあり

 

島の美容室で、自分の理想を見つける

長谷川さんが美容師を志したのは、高校3年生のときに起きた東日本大震災がきっかけでした。自分の無力さを感じて「自分にできることを」と考えた結果、美容師を目指して高校卒業後に専門学校に通い、東京・青山のサロンでアシスタントになりました。しかし華やかに見える世界も、他店舗との熾烈な競争から、売上を伸ばすために必死だったそうです。

アシスタントの長谷川さんは、サロンの営業時間が終わってから技術の練習を行っていました。シャンプー、カット、カラーなど各段階でテストがあり合格したら次へ進むシステムでしたが、「器用でなくて、なかなか先へ進めませんでした。技術力がないのがコンプレックスでした」と言います。

シャンプーコーナー。インテリアはベルリンらしいテイスト

シャンプーコーナー。インテリアはベルリンらしいテイスト

 

やがて体調を崩して休職し、友人の勧めで石垣島へ。そこで『島の美容室』という1冊の写真集と出合います。それは、関東からやってくる美容師さんが沖縄・渡名喜島で月に10日だけ開く美容室の様子を写真に収めたものでした。
「島の人たちがみんな幸せそう」と、写真に衝撃を受けた長谷川さんは、その美容室をしばらく手伝いました。そして「どんな人たちもハッピーになるような美容室をやりたい」と決心したのです。

ベルリンに来た瞬間に、「好きだと思った」

島から戻った長谷川さんは再び東京のサロンで働きますが、ギャップを感じて退職。北海道のリゾートホテルでアルバイトをしたところ、そこでまた衝撃を受けました。
「ホテルではスタッフもお客さんもアジア系外国人でした。それまで日本の報道で聞いていたのとは違って、みんな日本が大好きなんです。それがカルチャーショックで、『英語を勉強しよう』と思いました」

その後ホテルの派遣業で貯金ができた長谷川さんは、憧れていたロンドンへ行こうとイギリスのワーキングホリデー(以下ワーホリと記載)に応募。ロンドンには有名な美容学校のヴィダルサスーンがあり、そこで勉強したいと考えていました。
しかしイギリスのワーホリは限られた人数しか行けず、抽選漏れという結果に。そこで、やはり興味のあったベルリンへ行こうと、ロンドンに1ヵ月、ベルリンに1年滞在する計画を立てて、昨年10月にベルリンにやってきました。

ESHKベルリンのディレクター、ミゲルさんと

ESHKベルリンのディレクター、ミゲルさんと

 

ベルリンに来た瞬間に、ここが好きだと思いました
と、長谷川さん。
ベルリンは初めてでしたが、そのまま住むことを決意。ドイツ入国後にドイツでのワーホリビザを申請しました。
ドイツのワーホリは、日本からでもドイツ入国後でも申請できて、しかも他国のように発給数の制限がありません。作文の提出なども不要です(ワーホリについての詳細はドイツ大使館のHPをご覧ください→「ドイツでワーホリする10の理由」 )。18歳以上31歳未満(ビザ申請時)でヨーロッパ滞在に興味がある人には、ドイツのワーホリビザを取得することをおすすめします。

 

勤務するサロンはインターナショナル

ベルリンに住み始めて、まずは仕事とドイツ語の学習をしようと活動開始。語学学校のインテンシブコースに通い、A2レベルまでドイツ語を勉強しました

それと並行して日本人が経営するベルリンのサロンに応募しました。日系サロンで日本人が働くのなら、滞在許可が下りやすいのではないかと考えたからでした。ベルリンには日本人のサロンが数店舗あり、その中のひとつで仕事が決まりましたが、週3日のペースで2ヵ月間働いたところでドイツ語の勉強に集中するために退職。その後ドイツ人のサロンを紹介されましたが、将来的な滞在許可の面から就職にはつながりませんでした。

現在の職場であるESHKは、もともと長谷川さんがお客として通っていたサロンです。以前サロンで働いていた日本人スタッフを通して面接を受けたところ合格して、アシスタントとしての毎日が始まりました。1日8時間、週5日勤務で年次有給休暇は21日あります。技術練習は長谷川さんの休日(平日)にサロンで営業時間内に行っています。

スタッフはインターナショナル

スタッフはインターナショナル

 

フレンドリーなスタッフとおしゃべり

フレンドリーなスタッフとおしゃべり

 

ESHKに入店して長谷川さんが感じたのは、同僚たちがフレンドリーだということ。日本では上下関係が厳しかったそうですが、ここではみんなでひとつのチームだと感じるそうです。
ESHKのスタッフはインターナショナルです。スタイリストの出身国はさまざまで、2カ国以上のバックボーンを持つ人も。ですから店内で行き交う言葉は英語。お客さんとスタイリストのコミュニケーションも英語で、ドイツ語を希望する人には対応可能なスタッフがヘルプに入る仕組みです。ベルリンでは、お客さんもスタッフも外国人であることは少なくありません。

ベルリンのサロンの傾向

ESHKがスタイリストを採用する際のテストは、モデルの髪をカットした後にモデルがハッピーかどうかで決めるとのこと。スタッフがインターナショナルでEU統一の基準がないからだそうですが、ユニークだと思います。

私は、日本の技術は高いのではないかという素人考えを持っていましたが、ヨーロッパ人の髪はカーリーやストレート、髪色もさまざまで幅広いので、それに対応する力は現地で働く人のほうが慣れているそうです。

いろいろな髪質を知ることで経験値が上がるそうです

いろいろな髪質を知ることで経験値が上がるそうです

 

店内の花は日本人フローリストが担当

店内の花は日本人フローリストが担当

 

 

お客さんの好みも日本とは違っていて、日本の「モテ髪」のような他人の目を意識したリクエストをする人はここにはいないとのこと。私も、ベルリンでは自分の価値観を大切にしている人が多いと思います。

カラーは、ヨーロッパのほうがナチュラルな雰囲気を好む人が多く、ブリーチをしてから色を載せるバリアージュというテクニックをよく使うそうです。
「カラーの経験はヨーロッパのほうができると思うので、日本でカットを勉強して、ヨーロッパではカラーの経験を積むのもいいと思います。インターナショナルなサロンで働くには、タフで何でも聞く姿勢が大切です」

将来は何でもできる美容師に

ベルリンでは、人と語り合う時間やエコな暮らしなど、東京とは違った豊かさを知ったという長谷川さん。そういう生活ができることも魅力だといいます。

まずはベルリンで経験を積み、いずれは海外青年協力隊などに美容師として参加し、40代になったら老人ホームで福祉美容もやりたいと夢は広がります。以前経験した島の美容室のように、設備がない場所でも、どんな人もカットできるような美容師を目指して、ベルリンでの日々は続きます。

*長谷川さんが勤務するヘアサロンESHK https://www.eshk-hair.com/

著者紹介

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

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