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ロシアの執念が再起動させる天才ホフマンの幻夢世界!『ホフマニアダ:ホフマンの物語』

©souzmultfilm ©リスキット

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ロシアの執念が再起動させる天才ホフマンの幻夢世界!『ホフマニアダ:ホフマンの物語』

鬼才ソクーロフの『ファウスト』もそうですけど、ロシア映画界はしばしば、ドイツ巨匠文芸を超絶な執念と凝り方で映像化します。
なぜ? という明確な説明は無いのですが、原作テーマの普遍性・汎時代性・濃さがロシア人アーティストの想像力に刺さることで「いまこそ人類のために映像化と再構築を行うんだ!」というモティベーションに火をつけるのでしょう。そして得てして、「再構築」の部分にてドイツ人には無い感覚でのテーマ咀嚼と昇華が行われて凄いものになるので見のがせません。

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戦前から続くロシア最強のアニメーションスタジオ「ソユーズムリトスタジオ(チェブラーシカ等で有名)」が、15年の歳月をかけて完成に漕ぎつけた『ホフマニアダ・ホフマンの物語』も、明らかにその系列の作品です。
内容は、作家ホフマンの魂が青年期と老境に分裂し、『くるみ割り人形』『黄金の壺』『砂男』などなどホフマンの各作品の世界を渡り歩き、コア要素に直面した上で最後に統合に至るというもので、「ホフマンとは何か」という本質要素を練りに練って練りこみまくりました感が半端ないです。
ゆえにシンボル的要素が重要となる作品で、その面から見て人形アニメーションという技法はまさにジャストフィットでしょう。そして、
人形のつらがまえがヤバいです。いい意味で。

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ロシア最高のスタジオの手になるだけあって、人形も背景もあれもこれも、人間の本性や霊性のあれやこれやが、子供に見せていいんだろうかというレベルで実にごまかしなく濃厚表現されております。さすがです。
というか、実際にホフマンの目に見えていたのもこういう似顔絵的世界だったのかもしれない。だからああいう抽象化プロセスを含んだSF的な本質突き作品を書いてしまったのではなかろうか? と思ったり。そう、この映画の「画力」にはそういうパワーと刺激があるのです。

本作を観てあらためて感じるのが、現代的あるいは未来的な「不安感」とホフマン作品の恐ろしいほどの親和性です。人形の顔つきを通じて浮き彫りになってくるのです。
それは突き詰めていえば、以前ホフマンについて書いたときにも言及した「アイデンティティに関する根源的不安」であり、
自分の価値観や判断基準、世の中の見え方がいつの間にか変質していき、しかも自分でそれを自覚できず、かつての認識を完全に忘れ果てるのではないか?
というものです。サイバーパンク要素皆無の人形アニメでもそういう感触がしっかり滲み出てくるあたり、いろいろな意味で文化的な凄さを痛感せずにいられません。

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ちなみに、この手の不安感をエンタメ的に昇華させた現代作家としてはたとえばP・K・ディックとかが有名ですが、そうすると『スキャナー・ダークリー』なんかもロシアの鬼才が映像化したらある意味もっと凄いものになっていたかも、という気がしなくもない。素敵です。

ということで真・ロシア文化映画というにふさわしい逸品『ホフマニアダ:ホフマンの物語』は2019年4月2日から26日まで、恵比寿・東京都写真美術館ホールにて上映されます。古典として有名な『ホフマン物語』(1951年)が併映されるのもポイント。詳細は公式サイトをご参照!

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ときに19世紀傑作文芸といえば、ゲーテの『ファウスト』なんかもそうですけど、男性的な問題のアレコレが女性の真の霊性によって救済されるというパターンがあって、本作もその点は原典の展開を踏襲する内容となっています。もし、これがどうしても納得できないのよッ! 世界はもっと悪辣でフクザツでしょ! という場合、最近はNetflixで凄い実験的な高品質ドラマをいろいろやっているので、そちらを覗いてみるのもよいかもです。『ブラック・ミラー』とか『The OA』とか、伝統的哲学や文学のテーマと強烈にシンクロする内容なのでとてもナイスです。そう、重要なものはすべて繋がっているのです。

ということで、今回はこれにて Tschüß!
(2019.03.28)

マライ・メントライン

翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業 ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介される場合が多いが、自国の身贔屓はしない主義。好きなもの:猫&犬。コーヒー。カメラ。昭和のあれこれ。牛。

Twitter : https://twitter.com/marei_de_pon

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