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ドイツで生まれ育ち、夢を叶えて幼稚園の先生に 熊井萌音さん

ベルリンの幼稚園に勤務する熊井萌音さん。

ベルリンの幼稚園に勤務する熊井萌音さん。

ドイツで生まれ育ち、夢を叶えて幼稚園の先生に 熊井萌音さん

ベルリン市内の幼稚園で働いている、ベルリン生まれ・ベルリン育ちの熊井萌音(もね)さん。多国籍の子どもたちが通う、自由な教育方針を掲げる幼稚園の様子や、ドイツと日本の2つの文化に囲まれて育ったことについてお話をうかがいました。

 

子どもの自主性を重んじる方針の幼稚園

熊井さんが働く幼稚園は、ベルリンのクロイツベルク地区にあります。ここはベルリンの中でも移民が多く、国際色豊かなエリア。ですから園児たちもドイツ人、フランス人、トルコ人、アラブ人などインターナショナルです。熊井さんはここで2018年8月から勤務しています。

先生は、園児の年齢によって3つのチームに分かれています。ひとつが10ヵ月から2歳半までのチーム、残り2つが3歳から6歳までのチームで、熊井さんは3歳から6歳までの子どもたちの先生をしています。

先生という言葉には、子どもたちに何かを教えたり指示するイメージがありますが、この幼稚園は「オープンコンセプト(ドイツ語でOffenes Konzept)」と呼ばれる教育方針を採用しており、園児のやりたいことを自由にさせるのが基本。先生は子どもたちの行動に合わせて相手をするという考え方です。

園児たちは登園すると、9時までに朝食を済ませます。その後は自由に遊び、12時に昼食。園の食事はすべてベジタリアン。なぜなら子どもたちの宗教がさまざまで、宗教によって食べられない食材があるからです。ベジタリアンの食事ならそうした問題をクリアできると聞き、なるほどと思いました。昼食後はお昼寝をしたり、夕方にお迎えがくるまで遊んで過ごします。保育時間は7時間コースと9時間コースがあり、多くは5時間から7時間だそうです。

幼稚園には部屋が6つあり、各部屋には工作道具やブロックなどが用意されています。園児たちは自由に部屋を移動し、好きな遊びをします。男の子同士で遊んでいると走ったりしてとてもワイルドですが、そこに女の子がまじると少し静かになるのだそうです。

子どもの自主性に任せるという教育方針は簡単そうに聞こえますが、放任主義とは違います。

「子どもたち同士がケンカをしたとしても、見守ります。もし子どもが手を出したら、そこで止めに入りますね。もちろん先生が園児に手を上げることはなく、なぜケンカになったのかを子どもたちに聞くようにしています」

小さな子どもに対しても、言葉できちんと説明させる姿勢はドイツらしい気がします。私がドイツに来た当初、子どもたちが幼いうちから自分の意見をきちんと言うことに驚いたものですが、それはこうした教育によるものではないかと思います。熊井さんは「危ないことをしているときには叱りますが、そのときもちゃんと言葉で説明します」と話します。

大人はつい自分のペースで子どもを見てしまいがち。でも、子どもは新しいことを習っている最中なのだから見守ることが大切なのだと、熊井さんは話します。

「幼稚園の先生に必要なのは、子どもの目で世界を見られることですね」

 

6歳の頃から幼稚園の先生になるのが夢

「この仕事が大好きです」

と話す熊井さん。6歳の頃から既に幼稚園の先生になりたかったそうです。熊井さん自身が子どもの頃から、知り合いの子のおむつを換えたりしていたとか。

熊井さんはギムナジウムの課程を終え、アビトゥーア(大学入学資格試験)に合格。その後2年ほど世界を旅行し、23歳から幼稚園の先生になるための勉強を始めました。

専門学校のカリキュラムは、3年間の授業と並行して毎年幼稚園やユースクラブ(ドイツ語でJugendclub、十代半ばから後半の子どもたちが放課後に過ごす場所)での研修を行うという内容。最後にレポートを提出し、試験に合格して幼稚園教諭の資格を取得しました。アビトゥーアを受けていない人は、専門学校に入る前に、幼稚園で2年間研修を受ける必要があるそうです。

すべてのカリキュラムを修了し、26歳で幼稚園の先生になった熊井さん。

「先生になった当初は一瞬不安になったこともありましたが、今は幼稚園の先生こそが私の仕事なんだと確信しています」

幼稚園で働くことで、自分も子どもたちと共に成長していると感じているそうです。

「懐かしい匂いがする」という日本。鎌倉の鶴岡八幡宮にて。

「懐かしい匂いがする」という日本。鎌倉の鶴岡八幡宮にて。



 

自分らしく、堂々と

熊井さんは日本人の両親のもと、ベルリンで生まれ育ちました。ベルリンの学校と平行して、15歳頃までは週に1回、日本語補習授業校にも通学。日本語の教科書で日本語や数学を勉強していました。家族とは日本語で話し、日本のドラマも見ていたそうですが、漢字を習うのは「ドイツに住んでいるのになぜ?」と思ったこともあり、大変だったそうです。

熊井さん自身は、内面はドイツ人だと思うことが多いと話します。しかし日本に行くと懐かしい匂いがして、ベルリンに帰ってきてもすぐにまた日本に行きたくなるとも。どちらも熊井さんにとって大切な国に違いはありません。

アジア人の容姿のために、ベルリン生まれと思われずに遭遇した出来事もいろいろあるそうです。例えば英語で話しかけられて、ドイツ語で返答をしたら驚かれたりとか、空港のパスポートコントロールで長々と質問をされたりなど。ですが、たとえ嫌な気分になっても落ち着いて堂々と振る舞うように心がけてきたそうです。

「自分が堂々としていれば、周りもそのように接してくれます」と熊井さん。

人々のバックグラウンドは多様ですし、人々の考えかたもさまざまです。以前この「ドイツで羽ばたく日本人」コーナーで、同じくドイツ生まれの日本人・綿谷江利菜さんのお話をご紹介しましたが、ドイツ生まれの日本人でも当然ながら考え方は人それぞれ。多くの意見を知り、想像を広げることが、多様化する世界を生きる上での一歩になるのではないかと思います。

 

 

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

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久保田 由希