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「東ドイツを描いた初めての映画」?!アンドレアス・ドレーゼン監督の新作「グンダマン」、ヒットの理由

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「東ドイツを描いた初めての映画」?!アンドレアス・ドレーゼン監督の新作「グンダマン」、ヒットの理由

2018年も残すところあと1日となりました。
2019年は東ドイツという国が無くなってから29年。そんなに年月が経っているのに?経っているからこそ?、ドイツ映画界で話題をさらった「東ドイツ」を描く映画がありました。
アンドレアス・ドレーゼン監督の「Gundermann グンダマン」。
8月の封切りにも関わらず、いまもなお各地で上映が続く大ヒット作品は、「東ドイツを(外や上からではなく)描いた初めての映画」として、高い評価を得ています。
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© Foto: Peter Hartwig / Pandora Film

東ドイツのシンガーソングライター、ゲルハルト・グンダマン、歌手として成功してからも褐炭採掘場で働くことをやめず「ラウジッツの歌うパワーショベル運転手」の異名を持つ“グンディ“。映画では、東のボブ・ディラン、切々と小さな人々の暮らしを歌い上げる歌手としてのグンダマンだけでなく、東西ドイツ再統一後に大きなスキャンダルとなった秘密警察シュタージの情報提供者としての過去や葛藤にも切り込んでいきます。

「東ドイツを描いた初めての映画」?
東ドイツという国が無くなってから作られた、東ドイツを舞台にしたドイツ映画は、数多くあります。もっとも有名なのは、アカデミー賞を受賞した「善き人のためのソナタ(原題:Das Leben der Anderen)」ではないでしょうか。この映画も、東ドイツの秘密警察、シュタージの職員が主人公ですが、私個人的にはこの映画の中で描かれる東ドイツ(人)像に違和感を感じ、あまりピンとこなかったんですね。わかりやすくハリウッド化された、東と秘密警察が“悪”→西側の芸術に感激→改心という構図も薄っぺらく思えました。ちなみに「善き人のためのソナタ」のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督は西ドイツ出身。西の人が東の話を描けないわけではないでしょうが、この映画の場合はあくまでも物語を派手にするためだけの"東ドイツ"なのかと。

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© Foto: Peter Hartwig / Pandora Film

アンドレアス・ドレーゼン監督は、MDR(中部ドイツ放送)のラジオインタビューで「善き人のためのソナタ」について触れ、「よくできたスリラー映画だと思いますが、私たちが知っていた東ドイツの暮らしとは、ほぼ別物ですね」と語っています。「それで、本物の東ドイツ人が描く東の映画があってもいいんじゃないかと思ったんですよ」。実は、この映画「グンダマン」のアイデアは、10年以上も前の2006年に生まれていたのだそうです。
なぜ実現まで、こんなに長く時間がかかってしまったのか?その理由の一つが、プロダクション会社が、脚本に難色を示したことだったと言います。
グンダマンが、西側ではほとんど無名だったことに加え、グンダマンが自らが秘密警察で働いていたこと対しての後悔が足りなすぎるというのです。

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© Foto: Peter Hartwig / Pandora Film

ゲルハルト・グンダマンは、1955年、ヴァイマールに生まれ、1998年の冷たい夏至の夜に短い生涯を閉じました。
褐炭採掘場が作られ、東ドイツエネルギー地区として発展したホイヤースヴェルダで育ち、NVA(国家人民軍)の将校学校に入学するも、将軍を讃える歌を歌うことを拒んだために退学になり、その後露天採掘場で働くことに。そこでも上司とぶつかることが多く、またその頃、非公式の情報提供者としてシュタージのために働くことになります。ライブでどんなに夜遅くなっても、次の日の朝には、採掘場に行き、巨大なパワーショベルで褐炭を掘り起こし、有名になってからも、あくまでも一人の労働者として、常にストライプシャツにジーンズ姿で歌い続けた彼。
上司に盾突き、政府を批判し、何度も党から追いやられ……。
そんな彼がシュタージの一員として、仲間を、友人を密告していたなんて。
なぜ?
「これで、東ドイツが良くなると思っていた」
「たいしたことはやってない」と繰り返す彼に、膨大な、密告の書類のコピーが手渡されます。
8年間の、密告の記録。

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© Foto: Peter Hartwig / Pandora Film

1982年、大学を出たばかりのドレーゼン監督は、深夜のテレビ番組で初めてグンダマンを見たそうです。当時、強情だと党を追い出されたグンダマンは、番組内でかなりおおっぴらに政府を批判しており、それが放映されたこと自体に、監督は驚いたのだとか。
90年代に、彼が秘密警察の情報提供者だったというニュースが出た時は、まさか彼が?!という気持ちとともに「理想を追い、自分が何かを正しい方向に導けると信じきっていたグンダマンだからこそ、シュタージに関わったというのはあり得ないことではないと思った」と語っています。

グンダマンという、矛盾を抱えながら理想を追い続けた人物を通し、描かれる東ドイツという国の理想と矛盾。採掘場のぬかるみに埋まりながら、生まれる歌。
ドレーゼン監督は言います。
「東ドイツが崩壊してしまったからといって、“公平な世界”というアイデア自体が間違っているわけではありませんから」オスタルギー(東へのノスタルジー)は大嫌い、最近の“東のアイデンティティ”という言葉にも気をつけたいというドレーゼン監督。「東ドイツ時代に戻りたいわけではありませんが。グンダマンが、ぴったりくる言葉を書いてます。『俺は負け犬なんだ。正しい馬に乗ったんだけど、その馬は勝たなかったんだよ』ってね」。

グンダマンを演じた、アレクサンダー・シェールは、フォルクスビューネなどでも活躍する怪優で、現在ハンブルクのシャウシュピールハウスでデヴィット・ボウイを演じています!(→Lazarus
やはり東ドイツを描いた名作「Sonnenalleeゾンネンアレー」でも主役を演じましたが、グンダマンははまり役! 2019年もまだまだ上映が続きそうなこの映画、ご興味ある方はぜひ見てみてください!
Gundermann公式サイト

河内 秀子

東京都出身。2000年からベルリン在住。2003年、ベルリン美術大学在学中からライター、コーディネーターとして活動。雑誌『Pen』『derdiedas 』などでもベルリンやドイツの情報を発信させて頂いています。
趣味は漫画と東ドイツとフォークの刺さったケーキの収集、食べ歩き。蚤の市やマンホール、コンクリ建築も大好物。
Twitterで『#日々是独日』ドイツの風景を1日1枚、アップしています。@berlinbau

河内 秀子