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税理士になるつもりが、ドイツでバレエ教師に 山本有里恵さん

ベルリンでバレエを教える山本有里恵さん

ベルリンでバレエを教える山本有里恵さん

税理士になるつもりが、ドイツでバレエ教師に 山本有里恵さん

幼い頃からバレエを習い、将来は海外留学をしたり、世界的なダンサーとして活躍したいと願っている人は大勢いると思います。ところが、現在ベルリンでバレエ教師をしている山本有里恵さんは、大学3年生になるまで海外での活動はおろか、バレエを職業にすることさえもまったく考えていなかったそうです。それが一体なぜベルリンでバレエを教えることになったのか、その独自の道のりをうかがいました。

 

なんとなく税理士になるつもりが

 

「本当にぬくぬくと実家で暮らしてきて、何をお話ししたらいいのか」と、笑顔を浮かべる山本さん。バレエは5歳から始めていたものの、大学に進学して将来は税理士になろうと漠然と思っていたそうです。

笑顔でインタビューに答えてくださった山本さん

笑顔でインタビューに答えてくださった山本さん



 

進学を決めた理由もユニークです。「中高一貫教育の学校に通っていて、受験のこともあまり考えていませんでした。仲のよい友人が『私、会計士になる』というので、『じゃあ私も』と決めたのが高校3年生のときでした」

 

大学進学後は、数字を扱う面白さから簿記の勉強を続けて、1年生のときに簿記2・3級資格を取得。バレエはずっと続けていましたが、それを仕事にできるとは考えていませんでした。

 

なぜかカナダ留学。なぜか片道切符

 

転機が訪れたのが、バレエワークショップへの申込み。日本とカナダのバレエ交流に尽力しているカナダ人講師による主催だったので、申込書に留学希望欄がありました。

「海外に興味はなかったのに、何となくそこにチェックを入れたんです」

 

するとワークショップ終了後に、1年間のカナダ留学が許可されました。英語が苦手だった山本さんは、英語の勉強もあまりせず、単語帳も持たずに一人でカナダへと飛んだのです。

 

初めての海外で、しかも一人旅。しかし、往復チケットを買わずに、なぜか片道切符だけを手にした出発でした。その理由は自分でもわからない、と山本さん。「大学3年生のときだったので、すぐに帰国しなくてもいいと思っていたのかもしれません」と話しますが、無意識のうちに海外での活動を選んでいたのでしょうか。

 

何のあてもなくヨーロッパへ

 

1年間のカナダ留学を終えたとき、歴史のある国へ行きたいと思った山本さんは、何のあてもなくヨーロッパへと向かいました。ビザなしで滞在できる3ヵ月以内に何か見つかればと、ジュネーブのワークショップを受けたところ、そこの先生の紹介でロッテルダムのダンスアカデミーを受験できることに。そこで合格し、2年間勉強することになりました。日本にいた1年前からは想像できないような行動です。

 

しかし、ロッテルダムの校風はモダンな演出が特徴で、山本さんの求めている形とは少し違いました。そこで今度はイタリアのダンスカンパニーで踊りましたが、ビザの関係から1年間しかいられず、2015年にとりあえずという気持ちでベルリンにやってきました。

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ベルリンを選んだのは、ドイツにワーキングホリデービザがあることと、ヨーロッパに飛んだ当初にベルリンに立ち寄ったという理由から。そこでオーディションを受けましたが、結果が出ない日が続きました。

 

「でも日本に帰国しようとは思いませんでした。それは自分の意志で決断したのだと思います」

 

そんなとき知人のバレエ教師が山本さんを教師に推薦してくれたことで、2017年から子どもたちを教えることになりました。

 

ドイツでは大人も子どもも自己主張

 

現在は3つのバレエ学校で、初心者から中級者までの大人と子どもクラスを受け持っています。レベルに応じて、その人なりのバレエの楽しみを見つけてもらうことを心がけながら、生徒全員平等に接しているそうです。

同じく子どもクラス。生徒たちが大好きなストレッチでは、一人ずつ体の向きや足の上げ方を指導

同じく子どもクラス。生徒たちが大好きなストレッチでは、一人ずつ体の向きや足の上げ方を指導



 

 

レッスンで感じるのは、生徒の自己主張の強さ。

「大人も子どもも自己主張をはっきりしますね。ドイツでは子どものうちから自分の意志を持ち、こちらとの対等意識があると思います。子どもはほめて興味を持たせ、具体的な説明をして納得させるのが大切です」

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1クラス14人の子どもたちを相手に、コミュニケーションを取りながらレッスンを行うのは想像するだけで大変そうですが、「レッスンを通して自分がオープンになり、ここでやっていこうと思えるようになりました」と語ります。

 

海外で生きるには、仕事を通して認めてもらうしかない

 

日本では、周囲に流されて生きていたのかなと思うこともある、と山本さん。でも海外ではそういうわけにはいきません。なぜなら、当然ながらヨーロッパでは日本人は外国人。滞在許可や労働許可を一定期間ごとに申請し、許可が下りなければ滞在することはできません。そのたびごとに、「なぜここにいたいのか」「何がしたいのか」「何ができるのか」を自問することになります。日本にいれば無条件に自国に住めて働けますが、海外では自ら考えて行動していかないと扉は開いていかないものです。

 

「ドイツ人でない私がドイツで認められるためには、仕事しかないと思います」

 

そう山本さんが考えるようになったのは、ロッテルダム時代にケガをして、一人で考える時間が長かったことがきっかけでした。日本では誰でもこれまで築いてきた環境がありますから、じっくり考える機会も少ないかもしれません。海外にいると、必然的に自分を見つめ直せます。

 

「流されやすいと思っていたけど、今では自分の意思があるのかな、と思います」と話す山本さん。バレエ教師とドイツ語の勉強を続けながら、今後はダンサーとしても踊り、会計や日独英の翻訳の仕事もしてみたいそうです。何かをやりたいと願えば、きっと近づけていけると思います。

 

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『心がラクになる ドイツのシンプル家事』が大和書房より発売になったばかり。散歩、写真、ビールが大好き。

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久保田 由希