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映画『50年後のボクたちは』…全世代向け「突破」物語の意味とは?

© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH ©ビターズ・エンド

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映画『50年後のボクたちは』…全世代向け「突破」物語の意味とは?

ドイツで220万部を売り上げた驚異のベストセラー『Tschick』(日本語版タイトル:『14歳、ぼくらの疾走』)の映画化。監督は『ソウル・キッチン』などで知られる才人ファティ・アキン! ドイツ全土が超期待と不安で注視する中リリースされた、『50年後のボクたちは』の出来は…

素晴らしい。ドイツ文化枠とかと無関係に必見の傑作です!

いまひとつ周囲に馴染めない、目立たないベルリンのギムナジウム生である14歳の「ぼく」マイク・クリンゲンベルクは、転校生である変わり者の「チック」と微妙に親しくなる。そして夏休み、二人は連れ立って、モヤモヤした日常生活からの脱出を図る…

© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

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原作小説については以前こちらにレビューを書きましたのでご参照。
そして改めて映画版を見ると、ビジュアライズによって浮上する作品の本質にいろいろと気づかされます。
本作、一般的には「少年の精神的成長、その重要な節目を描くロードムービー」ということになっていて、それはそれで全く正しいのだけど、個人的には今回、

思いもよらぬ本物ハードボイルドなのだ

という印象を強く受けました。
何がハードボイルドなのか? これは言葉の定義の問題も絡むから異論は当然あるでしょうけど、まずは「暴力性」という問題に対する(地味ではあるが)リアルで深い観点、そして何よりも

カッコ悪い自分の実相を直視し、しかもそれを前面に立てて現実相手に勝負を仕掛けるストイックさ

をきっちり描いてみせた点です。
ついつい大人びたカッコつけ要素とかスタイル感覚が混入しがちな、ハードボイルド「っぽい」ものとは正反対の本質突き路線というか。これはある意味、少年を主人公としたゆえにやってのけられたコンセプトと言えるかもしれません。
特に「形式と手続と条件付けから入る」流儀の国であるドイツでは、このアプローチは大きなインパクトをもたらした気がします。

© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH ©ビターズ・エンド

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家庭、そしてオトナ社会から漂ってくる諸々の圧力・葛藤に浸食され、色々とくすぶりながらゲーム漬けな日々(それもスーパーマリオとかではない、撃ちまくりFPS系ゲームな点がポイント)を送る「語り手」マイク。情報過多時代の只中で、あらゆることを中途半端に知っている存在。その人物像はイマドキの子供の象徴というだけでなく、スマホ漬けになっている老若男女すべて人間たちの内面とも、なにやら深くつながっている気がします。というか実際、実感せずにいられない…
本作はもともと、青少年向けヤングアダルト小説として書かれた作品ですが、実際には世代を問わず大人読者をも完全に魅了して人気爆発、社会的ブームを巻き起こしました。なぜそうなったかという理由のひとつは、意外とそんな点にあるように思うのです。

© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

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「借りた」クルマで日常のしがらみを突破したマイクとチック。彼らはたとえ一時的にでも、いったい何を得るのか?
自由、というのがまず真っ先に思いつくコトバだけど、本作ではどちらかといえば「知覚・想像力の解放の機会」という要素が強く提示されます。日常から脱日常へ。モノは変わらないはずなのに、雰囲気がすべて違って見えてくる。そして感性が変化してくる…
原作で印象深いこの意識変容の展開が、映画で見事に再構築されています。
有限とも無限ともつかないドイツの田舎の空気感、色彩、人びとの「顔」。そして、大きなリアルな感銘をネット時代的な単語で表現しつくそうとする主人公たち。わざとらしくなく、あざとくないのが実にイイ。素晴らしい。コンテンポラリーなコトバをあれこれ使っていながら、今から20年後に観ても、古びて無価値になったりしていなさそうな点が素敵です。

そしてなんといっても、チックと呼ばれる奇妙な少年。彼はなぜそこまで本質ハードボイルド的な生き方を知っていて、さらにそれをマイクに伝えることが出来たのか?…そう、この真相がイイ。実にイイんですこれが…

© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

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本作、語り手であるマイクだけでなく、われわれ観客の心にも成長の機会を投げかけている気がします。年齢無視でいまさらながら…いや、いまさらという認識はたぶん間違いでしょう。不思議な感覚だけど、本当にすごい作品では平然とそういう不思議が起こるものです。
映画や小説にはときどき、「人類への贈り物」みたいな格をもった作品というのがあって、これもそのひとつじゃないかという印象を受けます。
原著者ヴォルフガング・ヘルンドルフが脳腫瘍による死との時間競争の中で書き上げた本作は、彼の死後、ますます強く光と意味を放っているように感じられます。お世辞や誇張抜きで、まさに人類必見・必読の傑作なのです。

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映画『50年後のボクたちは』は、2017年9月16日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国で順次公開、絶賛上映されます。少なくとも私が絶賛しているので、絶賛という表現はウソじゃないのだ!^^
公式サイトはコチラです。

それでは、今回はこれにて Tschüss!
(2017.09.13)

マライ・メントライン

翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業 ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介される場合が多いが、自国の身贔屓はしない主義。好きなもの:猫&犬。コーヒー。カメラ。昭和のあれこれ。牛。

Twitter : https://twitter.com/marei_de_pon

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