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アートとしての陶芸を追求 Harumoさん

ベルリンのアトリエで作陶するHarumoさん

ベルリンのアトリエで作陶するHarumoさん

アートとしての陶芸を追求 Harumoさん

ドイツと陶芸。日本にいた頃は両者のつながりがイメージできませんでしたが、ベルリンで頻繁に陶芸教室を見かけるようになり、陶芸が親しまれていることを知りました。 ベルリンでは、日本の陶芸家も活動しています。 Harumoさんもその1人。ベルリンの共同アトリエを借りて作陶に励んでいます。

大学院留学の予定からフリーランスの陶芸家の道へ

ベルリン・ノイケルン地区の、飲食店やお店が並ぶにぎやかなストリート。教えてもらったアトリエの住所を頼りに歩いていくと、表はごく普通のお店。ところが扉を開けてどんどん奥へ入っていくと、焼き物用のろくろが数台並ぶアトリエが現れました。

普通の店の奥にアトリエが出現

普通の店の奥にアトリエが出現



ここは3人が共同で借りている陶芸アトリエで、教室も開かれています。Harumoさんは友人のつながりからこの場所を紹介され、2015年からここで作品を創りはじめました。

陶芸をはじめたのは、高校卒業後に留学したオーストラリアの芸術大学がきっかけでした。入学したのは描画科でしたが、そこで「セラミックアート」学科の存在を知ったHarumoさんは、日本にある、いわゆる「伝統的な陶芸」とは異なる「アートとしての陶芸(セラミックアート)」という分野に出合い、陶芸の魅力を追求するようになりました。

大学卒業後は、いったん日本に帰国して、日本の陶芸教室に就職。陶芸に関わりつつ収入を得て、今度は海外の大学院に留学するつもりだったそうです。

「私の興味のあるセラミックアートという分野は、日本よりも西洋の方が理解があります。ドイツの大学院は、学費もあまりかからないのも大きな理由の一つでしたし、ヨーロッパを拠点に活動できるのが魅力的で」との考えから、2014年にドイツへ渡り、ベルリンの大学準備コースで1年間ドイツ語を勉強。そして陶芸関係の学科がある大学院数校を受験したところ、2校に合格しました。

そんなときに、現在のアトリエを紹介されたHarumoさんは「陶芸は土に触れることが大切。学位よりも経験を優先しよう」と、陶芸家としてやっていくことを決意。学生ビザからフリーランスビザに切り替えて、陶芸家生活が始まりました。

窯は共同で使用。

窯は共同で使用。



お客さんはどこにいる?

陶芸家として歩みはじめた1年目。とにかく名前を知ってもらうために、ベルリンで開かれている数々のデザイン関連マーケットイベントに出店しました。しかし、気に入ってくれる人はいても、実際に買ってくれる人はほとんどいません。

「お客さんに値段を言うと『高い』と言われてしまうことの連続でした。当時はベルリンの経済水準が、ほかの街に比べてあまり高くないということをよく知らなかったので、自分の作品はそんなにも価値がないのかな、と落ち込みました。これでも日本やオーストラリアにいたときに比べたら、だいぶ安くしているのですが……」

と、試練の日々が続きました。

モノトーンのシックなHarumoさんの作品。すべて一点物。

モノトーンのシックなHarumoさんの作品。すべて一点物。



 

Harumoさんの作品は、すべてろくろで成形し、絵付けも手作業の一点物。大量生産される工業製品のような値段では売れません。

しかし、ドイツでも多くの人にとって陶器は、アートというよりも日常使いの食器という位置付けで、高い金額を出す人は少数派。中でもベルリンは、金銭的に余裕がある人が比較的少ないので、なおさら大変だと思います。

「売れなくても、とりあえず、人の目につくところに出し続けなくてはダメ」と自分に言い聞かせ、本格的なウェブサイトを制作。マーケットや展示会は、販売目的よりも、名刺を配る場所というつもりでやり続けました。そこからお客さんが現れはじめます。

「ある日、HP経由で、作品を買いたいから見せてほしいという男性から連絡が入りました。値段は掲載しておらず、『高い』といわれるのが怖くなっていた時期だったので、おそるおそる値段と、その理由を伝えると、『ひとつひとつ手作りで、時間をかけているのは作品を見ればわかるし、それにお金を払うなら、よろこんで払います』と快く買っていってくれたんです」

その経験から「『安ければ買う』という人に合わせるのではなく、価値を理解してくれる人に合わせていこう」と、心に決めました。今年の目標は、自分の作品に合う市場を選び、自らから足を運ぶこと。民間のマーケットより、美術工芸系のギャラリーや個人のウェブサイトを重視しています。

ろくろで一つずつ成形。手作りらしさを出すために、あえて完璧な形にしない。

ろくろで一つずつ成形。手作りらしさを出すために、あえて完璧な形にしない。



 

 

実用品ではなくアート作品

アトリエに並ぶ、制作過程の作品。

アトリエに並ぶ、制作過程の作品。



陶芸を含めた工芸品は、実用性とアートという2つの側面を持っているといいます。例えば陶芸なら、食器でもあり、装飾品でもある。ドイツでは実用面が重視されますが、日本でも食器として捉えられることが多いそうです。

Harumoさんが目指しているのは、アートとしての陶芸。一時期は売れやすいという理由で食器ばかりを手がけたこともありましたが、アートを焦点にするという理由から今はもう止めました。

Harumoさんがずっと創り続けているのは炻器(せっき、ストーンウェア)と呼ばれる焼き物で、陶器よりも固く、磁器よりも柔らかさのある土で、作風に合った絵付けがしやすいそうです。ろくろで成形する際にあえて完璧な形にせず、どこかに表情をつけることで、工業製品とは違う手作りのよさを表現しています。それは絵付けも同じです。

ふっくらとした器の真ん中に描かれているのは、愛らしい表情の小鳥。どれもがモノトーンで、かわいらし過ぎたり、子どもっぽくはありません。

大学のときに先生から「絵付け作品は気をつけて、“お土産物品”にならないように」とアドバイスされたそうで、小鳥をモノトーンで描くという現在のスタイルは、アートを意識するところから生まれたもの。既に大学時代には、小鳥を描いた器がHarumoさんの作風として定着していました。

ドイツにいるからといって、現地に合わせたテイストにはせず、自分のスタイルを守っていくのがHarumoさんの考えです。

丸みを帯びたクリーム色の器に、モノトーンの小鳥が描かれていれば、ひと目でHarumoさんの作品だとわかります。それはアートとして作品を販売していく作家にとって、とても重要なことだと思います。

 

仕事のペースをつかむまで

ベルリンで初めてフリーランスとして働いたHarumoさん。最初の頃は、終わることのない作業を休まずにやり続けたために、過労からくる不整脈になってしまい、しばらく仕事ができなくなりました。そこから休むことの大切さを学んだと言います。

フリーになって休むことの大切さも学んだ。

フリーになって休むことの大切さも学んだ。



 

「初めてのフリーランスで、実績を出さなきゃと焦っていました。陶芸は力仕事なので、無理を続けると、5年後、10年後にツケが来ると先輩たちにもよく言われていたのですが……」と、Harumoさんは笑います。

私もフリーなので、よくわかります。決まった就業時間がありませんから、ついつい働き続けてしまうのです。でも、いい仕事をするには、きちんと休むことがとても重要だと、私もドイツに来て学びました。

現在作業しているアトリエは、共同で窯を使っているので、そのスケジュールを考えながら作陶をしています。成形、削り、素焼き、絵付け、釉薬をかけるといった一連の流れを、それぞれの工程ごとに1週間単位でまとめて行っています。例えば今週は絵付けで、来週は釉薬といった進行です。

将来は日本へ戻り活動することも視野に入れつつ、今はベルリンを通しヨーロッパで挑戦してみるというHarumoさん。小鳥が描かれた作品は、ベルリン市内の以下のお店、またはHPで買うことができます。

feuer-zeug-keramik
Mariannenstr. 48, 10997 Berlin
http://www.feuer-zeug-keramik.de/

HP: harumo-ceramics.jimdo.com

 

 

 

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)ほか著書多数。近著に『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)。散歩、写真、ビールが大好き。

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久保田 由希