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チェロ奏者からパティシエに転身、カフェ開業へ 小峯晋さん

自らのカフェを開業したパティシエの小峯晋さん

チェロ奏者からパティシエに転身、カフェ開業へ 小峯晋さん

ムースにタルト、モンブラン……。
きれいで繊細なケーキたちが、ガラスケースの中で宝石のように輝いています。
「わぁ、日本のケーキ屋さんに来たみたい!」
ショーケースを見た瞬間、そう思いました。

ベルリンで売っているケーキはほとんどがドイツ風で、フランス菓子を食べられる場所は、ごくごく限られているのです。

ケーキを作っているのは、パティシエの小峯晋(こみね・しん)さん。ベルリンで自身のカフェ”Café Komine”を2016年11月末にオープンしました。ケーキ作りからカフェでの接客まで、すべての業務を自ら行っています。

じつは小峯さんはチェロ奏者でもあります。
それがなぜパティシエに? どうしてベルリンでフランス菓子を?
詳しいお話をうかがってきました。

きらきらと輝く、美しいケーキ。どれにするか迷います

きらきらと輝く、美しいケーキ。どれにするか迷います




■スイーツ好きが高じて
「いらっしゃいませ」と、真っ白なコックコート姿で出迎えてくれた小峯さん。どこから見てもパティシエですが、小峯さんのベルリン生活はチェロ奏者としてスタートしました。

子どもの頃からチェロを弾いていた小峯さんは、ベルリン芸術大学で教鞭をとるチェリスト、Markus Nyikos 氏に師事したいと、2001年に同大学に入学。大学院を卒業し、オーケストラの研修生として演奏をする日々でした。

その一方で、甘いものに目がなかったそうです。でも小峯さんが好きな洋菓子は、ドイツの一般的なケーキ屋さんには売っていませんでした。

「それなら自分で作ろうと、最初はレシピを見てブラウニーのような簡単なものから手作りしてみたんです」

と、半ば必要に迫られて始めた洋菓子作り。しかしいつしかその面白さの虜になり、本格的に勉強したいと思うようになりました。
Nyikos教授に相談すると、意外にも「日本では一つのことをやり続けるのがよしとされるが、ヨーロッパでは多面的な活動をする人は多い」との答えが返ってきました。

小峯さんが学びたかったのはフランス菓子。せっかく勉強するのならフランスに行きたいと、フランス語も勉強したそうです。

ところがその夢を日本のご両親へ電話で話したところ、
「『音楽をやらないなら日本に帰ってこい』と言われ……。説得する余地がないほど猛反対されました」

当時はご両親からの仕送りを受けていたこともあり、2007年に日本へ。帰国して再び両親と顔を合わせて話し合った末に、日本で音楽の仕事を優先することを条件に、専門学校に通うことを許されました。

それからは実家で家業を手伝いながら、チェロの仕事、ル・コルドン・ブルー東京校の菓子コース通学と、3つを同時進行する毎日が続きました。
やがてご両親も、小峯さんの夢に徐々に理解を示してくれるようになったそうです。
1年後には菓子のディプロムを取得、パティシエへの道が開けました。

落ち着いた、上品な雰囲気の店内

落ち着いた、上品な雰囲気の店内



店内に掲げられた、ル・コルドン・ブルーのディプロム

店内に掲げられた、ル・コルドン・ブルーのディプロム




■ベルリンに戻り、カフェオープンへ
「ベルリンは過ごしやすいです」と話す小峯さんは、日本にいるときも「ベルリンに戻ってくる」と、ずっと思っていたそうです。

再びベルリンで暮らし始めた当初は、ケーキ屋さんで働くことを考えて履歴書を送っていました。フランス菓子を作るパティスリーで働いたこともありましたが、希望と合う店がなく、次第に自分で店を開くことを考えるようになりました。

そして2014年頃から、具体的に物件探しをするように。
厨房の大きさやロケーションなどの条件に適う現在の場所を見つけたのが、2016年3月のことでした。

しかし、これまでの借り主たちがきちんとメンテナンスをして来なかった物件は、工事業者の人も驚くほど電気や水道の配管がボロボロの状態。5月に契約を結んでから改装工事を始めましたが、工事が終わってCafé Komineをオープンできたときは11月末になっていました。

「改装が大変だろうからと、家賃をひと月分タダにしてもらったんですが、それでも工事が全然終わらなくて……。その間も家賃は発生するし、工事費は予定よりもかさむし、でも収入はないので焦りました」

西ベルリンの、落ち着いたエリアにあります

西ベルリンの、落ち着いたエリアにあります




■どの仕事にも人柄は表れる
ようやく工事も終了し、念願のカフェがオープンしました。お客さんの中にはフランス菓子や、シュークリームに入れている抹茶クリームに馴染みのない人もいて、質問を受ける毎日だそうです。

Caramel- Chocolat- Mangoとカプチーノ

Caramel- Chocolat- Mangoとカプチーノ




写真のCaramel- Chocolat- Mangoは、ムースの上品な甘さとマンゴーの甘みと酸味、ココナッツ、ピンクペッパーと、一品でいくつもの味と食感を体験できるケーキです。そのほかのケーキも、やはり味と食感のハーモニーが楽しめて、とてもおいしいです。

チェロ奏者としての小峯さんは、
「舞台で目立つよりも、観客に豊かな時間を提供したいという思いが強かったんです」
と話します。どちらかというと、オーケストラよりは数名で演奏するアンサンブルが好きなのだとか。

自分を前面に押し出すのではなく、お客さんの喜ぶ顔を思い浮かべる。そこに自分の個性を加えていく。そんな人柄が、お菓子にも表れているように思います。

音楽からお菓子の道へ転向したときは、音楽時代の友人には報告しにくかったそうですが、いざオープンしてみたらみんなが応援してくれることもわかりました。

「これまで誰かに支えてもらわなくても大丈夫だと思っていましたが、カフェ開業を通じて人の優しさに触れて、考えが変わりました」

「音楽を辞めたとは思っていない」とも。
これからカフェと音楽を結びつけて行きたいと話します。
Café Komineは、さらなる夢に向けて始まったところです。

HP:http://www.cafekomine.de/


文・写真/ベルリン在住ライター 久保田由希
2002年よりベルリン在住。ドイツ・ベルリンのライフスタイル分野に関する著書多数。主な著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『ベルリンのカフェスタイル』(河出書房新社)、『レトロミックス・ライフ』(グラフィック社)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)など。新刊『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』がマイナビ出版より発売になったばかり。
http://www.kubomaga.com/

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

Blog : http://www.kubomaga.com

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久保田 由希