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高得点マッチに沸いたドルトムント ドイツ最大のスタジアムでサッカー観戦

ドルトムントのスタジアム「ジグナル・イドゥナ・パーク」は、ドイツ最大。収容人数8万1359人を誇る Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

高得点マッチに沸いたドルトムント ドイツ最大のスタジアムでサッカー観戦

連載「アクティブ ドイツ!」<4>

ドルトムントの「ジグナル・イドゥナ・パーク」(Signal Iduna Park)は、ドイツで最大収容人数(8万1359人)を誇るスタジアムです。ブンデスリーガチーム「ボルシア・ドルトムント(BVB)」の拠点であり、市の大事なモニュメント。さらにドルトムンター(市民)やファンにとっては聖地、あるいは大聖堂のような存在です。そんなジグナル・イドゥナ・パークの近所に住み初めてから7カ月。日に日に高まる「中へ入りたい」という想いを、ついに叶える時がやってきました。(2016年11月30日)


|イエロー&ブラックに彩られたサッカーの街

ドルトムントは“サッカーの街”。その理由のひとつに、中央駅前に構えるサッカー博物館(Deutsches Fußballmuseum)が挙げられます。市のみならずノルトライン=ヴェストファーレン州やドイツサッカー連盟が後押しし、ドイツサッカーの歴史を堪能できる国内初の博物館として2015年に誕生しました。

またドルトムントを訪れると、ハリウッドのように道路に埋められた星のプレートに気付くと思います。全部で100あるプレートは、クラブ創設100年を記念して2009年に設置された「BVB Walk of Fame」。それぞれの星にはBVBの歴史的な年号や選手名などが記されています(全部の星の記載内容やスポンサーはこちらで見ることができます)。プレートは市の北東からスタートし中心街は30番台後半から40番台、そこから数を増やしながらジグナル・イドゥナ・パークへと続きます。路面の星を見ながらわいわいと歩くファンもよく見かけますよ。



歩く…と書いたのは、本当に歩いてジグナル・イドゥナ・パークへ向かう人が多いからです。中心街から徒歩圏内のスタジアムって意外とないもの。試合のある日はジグナル・イドゥナ・パークまでの道がボルシア・ドルトムントカラーのイエローとブラックに染まります。猫も杓子もイエロー&ブラック。ぞろぞろとジグナル・イドゥナ・パークへ向かう人波は、見ものです。

そんなカラーからか、クラブのマスコットキャラクター「Emma」は青い目の蜂(マルハナバチ)です。日本のゆるキャラを見慣れたわたしは全然かわいくないと思うのですが…スタジアム横のファンショップに並ぶキャラクターグッズは充実しています。“スタジアム詣”の際には、にぎやかなお土産になることでしょう。

ボルシア・ドルトムントのファンショップにはマスコットキャラクター「Emma」のグッズが並ぶ Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

ボルシア・ドルトムントのファンショップにはマスコットキャラクター「Emma」のグッズが並ぶ Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



 

|試合前にはビール屋台でテンションを高めて

カード型の年間チケットには、通年で指定された座席番号やバーコードが記載されている Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

カード型の年間チケットには、通年で指定された座席番号やバーコードが記載されている Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



注目のカードでのブンデスリーガ観戦チケットを手に入れるのは至難の業で、思い立ったからといって必ずしも行けるとは限りません。11月22日の試合は、「UEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグ」ですでに次のトーナメント進出が確定しBVBにとっては消化試合。相手となるポーランドの「レギア・ワルシャワ」は恐れるに足る相手でないとあって、年間チケットを保有する友人から「興味があればいかが」と2日前に座席を譲ってもらうことができました。ラッキー!

年間チケットはカード型で、指定された座席やバーコードが記載されています。つまり、1年をつうじて同じ席で観戦できるということ。チケットを次の1年に更新する際に同じ座席を指定することもできるそうで、40年間同じ席というベテランファンもいるそうです。隣席のファン同士が仲良くなるのも時間の問題。

スタジアム前に広がる“社交場”ビール屋台では、そんなファンたちが待ち合わせをする格好のスポットです。UEFAの規定で、スタジアム内でのアルコール提供は不可(ブンデスリーガでは可)。わたしたちも、そんなファンに混じってビールを片手に外で粘りました。目の前にジグナル・イドゥナ・パークがそびえ、テンションが高まる酒場です。女性客もけっこういましたよ。




 

|香川の連続ゴールに「SHINJI!」コール

スタジアムでは、案の上ノンアルコール。ビールは諦め、クラカウアー(Krakauer)を仕入れ中へと向かいました。途中通路や会場にはクラブ応援歌が流れ、「KAGAWA」ウェアを着たファンもたくさん見かけました。



小〜さな香川真司を穴が開くほど見つめていると、連続シュート! ボルシア・ドルトムントのファンに同化してはしゃぐ筆者 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

小〜さな香川真司を穴が開くほど見つめていると、連続シュート! ボルシア・ドルトムントのファンに同化してはしゃぐ筆者 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



試合開始35分前にはファーストイレブンがアップを開始。登場時には、ヴェルディの歌劇「アイーダ」の“凱旋行進曲”が流れ、ファンは総立ちでマフラーを振り歓迎していました。小〜さく見える選手に目を凝らすと、香川真司の姿が。これは嬉しい。試合開始直前の入場では、他のメンバー同様に名字が「KAGAWA!!」アナウンスされ、会場は「SHINJI!!」と叫び答えていました。もちろんわたしも大きな声でシャウト。

小雨がぱらつく中スタートした試合は、レギア・ワルシャワに先制点。「ええー」という気持ちで小指の爪の先よりも小さい香川を穴が開くほど見つめていると――香川がゴール。熱気が冷めやらぬ会場で、1分後になんと香川が連続ゴールしました。日本語で言うならば「よっ香川!」みたいなかんじの掛け声も飛びかいました。そして数分間をおかずBVBに3点目! ゴールの度に歓喜し、相手ゴールがあれば応援歌ムードに沸き立ち…叫んだり歌ったり立ったり座ったり、観戦ってとても忙しい(笑)

それもそのはず。この試合、開始25分で5点、前半に7点と信じられないスピードで得点されていったのです。しまいには「10点ゴールが見たいな」なんて贅沢な気持ちが出てくるほどでした。そんな無謀な夢は叶いませんでしたが、それでも終わってみれば8対4、チャンピオンズリーグの記録を塗り替えた総ゴール12点というハイスコアマッチとなりました。


本拠地ジグナル・イドゥナ・パークはイエロー&ブラックのボルシア・ドルトムントのファンで染まった Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

本拠地ジグナル・イドゥナ・パークはイエロー&ブラックのボルシア・ドルトムントのファンで染まった Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



 

|対フーリガンの騎馬隊、機動隊、放水車…

ずいぶんにぎわっているように見えた会場も、この日の観戦者数は5万5094人。ジグナル・イドゥナ・パークの満席にはおよそ2万6000人ほど足りませんが、立ち見席がおよそ2万5000あるということなので座席に換算すればちょうどすべて埋まったくらいでしょうか。

全体を眺められる上方の席座が個人的には気に入りましたが、熱烈なBVBファングループはゴール裏の指定エリアを陣取っていました。大型のフラッグを絶え間なくなびかせ、繰り出されるまとまりのいい応援。軽く100人を超えそうなグループを、お立ち台の上でメガホンを持った男性が率いていました。



愛あればこそ…ですが、BVBのファンは比較的フーリガン寄り(過激なファン)とされています。わたしがスタジアムへいよいよ入ろうという時には、ちょうどこのファングループが到着するタイミングに鉢合わせました。騎馬隊がバリケードを作るように並び、無駄なコミュニケーションを防ぎつつさり気なく入口への動線を確保しているようでした。荒れることで知られているレギア・ワルシャワのフーリガンやファンは、事前に会場入りを禁止されているとのことでしたが…。

バリケードを作るように並んだ騎馬隊。過激なファングループをさり気なく入口へ誘導 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

バリケードを作るように並んだ騎馬隊。過激なファングループをさり気なく入口へ誘導 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



ついこの間の10月末には、フーリガン同士衝突の恐れのある試合が立て続けに開催され街中で警察の出動を目の当たりにしました。例えば試合開始時間の数時間前には、指定された場所以外の通行を禁止するため各所で警察車両が道路を封鎖したり、片方のファングループに先導車をつけて歩かせたりと青い光で埋め尽くされていました(ドイツでは警察・消防車両の回転灯はブルー)。上空には警察のヘリコプターが旋回し、物々しい雰囲気でした。試合直前にジグナル・イドゥナ・パーク前まで行ってみると、暴動を鎮圧するための機動隊(Bereitschaftspolizeiの中のHundertschaft)が全方向へ睨みをきかせ、巨大な放水車が待機。好奇心から出かけただけのわたしは、度肝を抜かれたのでした。

シュルテ柄沢 亜希

Aki SCHULTE-KARASAWA ● 1982年生まれ、ドイツ・ドルトムント在住。フリージャーナリスト。執筆ジャンルは自転車・アウトドアアクティビティ、スポーツ、旅、食、アート、ライフスタイルなど文化全般。幼少期の5年間をハンブルクで過ごしたことがアイデンティティのベースにある。好きなものは、ビール、チーズ、タマゴ――ワイン、日本酒、ウイスキーも大好き。ランニング、ロードバイクライドにてカロリーを相殺する日々。ブログ「ドイツのにほんじん」に日記をつけ、産経デジタル「Cyclist」、三栄書房「GO OUT」などで執筆中。

シュルテ柄沢 亜希