女性必見「母親イコール幸せ」をシビアな視点で分析するドイツの本 – Young Germany Japan

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女性必見「母親イコール幸せ」をシビアな視点で分析するドイツの本

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先日、といっても先月の話になりますが、ドイツ映画際2016「HORIZONTE」に行ってまいりました。ドイツの映画はどれもテーマが深く(検察官のナチスの残党との闘いを描いたDer Staat gegen Fritz Bauerや、中絶をテーマにした24 Wochen24週間決断の時など)「映画」もそうなのですが、「本」に関してもドイツは傾向として(日本よりも)深いテーマや重めのテーマについて積極的に発信している印象です。

 

さて、今回はまさにシビアなテーマを扱っているドイツの本を4冊ご紹介したいと思います。はい、あまりにシビア過ぎて日本ではそれほど取り上げられなかったテーマ#Regretting Motherhood(母親になって後悔する)を扱ったものです。

 

論争#Regretting Motherhoodのきっかけとなったのはイスラエルの社会学者Orna Donath氏が書いた#regretting motherhood Wenn Mütter bereuenです。「もし今現在あなたが持っている知識および今までの経験を考慮した上で、『時計の針』を戻せるとしたら・・・あなたは母親になることを選んでいましたか?」の質問に「ノー」と答えた23人の女性にOrna Donath氏がインタビューをしています。つまりは「自分が母親となったことを後悔している女性」の研究です。この研究に協力している女性の多くが批難を恐れ実名ではなく仮名で自分の人生や気持ちについて語っています。

 

その後に出版されたSARAH FISCHER氏のDIE MUTTERGLÜCKLÜGE Regretting Motherhood – Warum ich lieber Vater geworden wäreは著者であるSARAH FISCHER氏があくまでも「自分の経験」を書いたものです。冒頭の本のように研究に基いた本ではないのですが、自らの体験や経験を書いているだけに、かなりリアルです。タイトルDIE MUTTERGLÜCKLÜGE(「母親であることがハッピーだという嘘」・・・日本語に訳すと強烈さが増しますね・・・)も衝撃的ですが、サブタイトルである“Warum ich lieber Vater geworden wäre”(和訳:「私が(母親ではなく)父親になりたかった理由」)には最初笑ってしまいました。が、この本には著者がそのように感じるエピソードがたくさん詰まっています。「父親」が小さな子供を連れて公園に行き、そこでスマホを見ながらメールチェックをすれば、周囲の反応は「あら、仕事の忙しい男の人が、父親の役割を果たして子供と一緒に公園に来るなんて偉いわ。ステキ」となりますが、同じこと(子供と来た公園でスマホを見ながらメールをする)を「母親」がやれば、周囲の反応は「子供の前でスマホだなんて、子供がかわいそう!!」(p.195)・・・ほんの一例ですが、SARAH FISCHER氏はこれが一事が万事だといい、本の最後のほうで「彼(SARAH FISCHER氏のパートナー)は子供が生まれた後も、自分のそれまでの生活を特に大きく変えることなく、自分の人生をそのまま歩き続けた。一方、私は子供ができたことで、生活において「できなくなること」が多くなり、全てにおいて変わることを余儀なくされた」(p.202)と綴っています。

 

この発言、ニッポンの感覚からしたら「母親としての自覚が足りない!」ということなのかもしれませんが、あくまでも「(男女の)平等」を理想としているドイツ社会では当然の不満だといえるでしょう。

 

続いてはChristina MundlosのWENN MUTTER SEIN NICHT GLÜCKLICH MACHT Das Phänomen Regretting Motherhood(和訳: 「母親であることが幸せではない時」)です。冒頭のOrna Donath氏の#regretting motherhood Wenn Mütter bereuenではイスラエル出身の女性が研究対象でしたが、こちらのChristina Mundlos氏のではドイツの女性へのインタビューがメインです。その中でドイツ特有の問題にも触れています。ドイツ人が潜在的に持つ「母親像」が多くの女性を苦しめていること、それが結果的に女性差別につながっていること(p.17)、そしてその女性像はキリスト教の影響を受けていること(p.56)などが挙げられています。さらに、こちらはドイツに限らず、どこの国にも共通することですが、母親になったことについて母親自身が実は後悔をしていても、そのこと自体が社会的にタブー視されているため口にすれば母親が攻撃の対象(p.27)となり、結果的にそのことについて話す場を設けることが中々困難であること。最終的には彼女達の声が黙殺されていることが多いといいます。

 

さて、最後の本は、Barbara Vinken氏が書いたDie deutsche Mutter Der lange Schatten eines Mythos(和訳:「ドイツの母親とは 神話が落とす暗い影」)です。2001年の本に加筆し、2007年に再出版されたものですが、現在#regretting motherhoodが注目される中で再び話題に上がっているロングセラーです。本のテーマはタイトル通り「ドイツの母親」。ドイツという国の歴史を振り返りながら、戦後なぜ「西ドイツ市民の母親像」が昔のまま保守的であり続けたのか、なぜフランス等の他のヨーロッパ諸国と比べ、保育園問題などにおいても遅れが生じたのか、それらのことを分析しています。本によると一つの要因は、西ドイツではナチスの暗い過去と東ドイツの体制を警戒するあまり、母親たちも含め市民全体に「幼い子供を国が関与する組織」すなわち保育園に預けることにかなりの警戒心があったことを挙げています。幼い子供を親から引き離す行為は多くの西ドイツ市民にとって共産主義や独裁政権を思い出させるものでした。「子供を親元から離し保育園に入れてしまうと、国が国にとって都合の良いことを子供に吹き込むのではないか」・・・潜在的にですが、そのような不安があったといいます。ところがフタをあければ、隣国のフランスなどは早くから保育園が充実していたため、女性の社会進出がドイツより早く進み、母親たちにとって生きやすい社会となっていました。一方、ドイツでは長い間「母親が家にいて、小さい子の面倒を見る」ことが当たり前となっていました。この本は、20世紀の話がメインですので、ドイツの今の状況とは多少異なる点もありますが、母親像の話はもちろん、ドイツの戦後から今までを理解するのに適した本だといえるでしょう。

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以上、今回は大変シビアなテーマでしたが、ドイツの本を4冊ご紹介させていただきました。

 

次回はもう年末ですね。また12月にお会いしましょう。

 

※本文に登場するドイツ語の本の「和訳のタイトル」はサンドラが意訳しました。実際には日本語版はありません。

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