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送った営業メール1300通超。ドイツでフリーフォトグラファーに 豊田裕さん

料理フォトグラファーとして活躍する豊田裕さん

送った営業メール1300通超。ドイツでフリーフォトグラファーに 豊田裕さん

フリーランスとして仕事を続けていくのは、大変なこと。仕事をもらうための営業活動が欠かせませんし、スケジュール管理や経理などの仕事もすべて一人でこなさなければなりません。
日本にいても大変なのに、ベルリンに来て3年程度でフリーランスとしての活動を軌道に乗せたのが、フォトグラファーの豊田裕さん。料理写真を中心に、イベントや店舗撮影などを行っています。その美しい写真は、お店のホームページやパンフレットに掲載されて見る者の心を捉えています。
引っ越したばかりという自宅兼オフィスで、異国の地で仕事を取るための努力や、ドイツで求められる撮影などについてお話を伺いました。


■海外好きの姉の一言が決め手に

海外移住を実現させた人は、それまでに綿密な準備を重ねていると思われるかもしれません。ところが意外にも豊田さんの場合は、そうではありませんした。

2012年にベルリンに移住する以前、豊田さんは東京の広告会社でフォトグラファーとして、数多くの料理写真を撮っていました。それまで海外経験は上海での4日間だけでしたが、漠然とヨーロッパで写真の仕事をしたいと思っていたそうです。

そんな折に発生した、東日本大震災。東京で被災した豊田さんは、それまで信じていたものがもろく、崩れやすいものだったと感じたと話します。
「そのときから、一度は国外に出て、違う世界を見てみようと考えるようになりました」

その後、海外経験豊富なお姉さんと話をしていたところ、「まだワーキングホリデーが取れる歳じゃないの?」と言われます。
当時豊田さんは30歳。調べてみると、ワーホリの申請は31歳の誕生日前日までできることを知りました。
そこから移住への準備が急ピッチで始まりました。31歳を迎えるまで、あと半年という時期でした。

引っ越したばかりの自宅兼オフィス。ドイツで初の一人暮らし

引っ越したばかりの自宅兼オフィス。ドイツで初の一人暮らし



「とよた」の飾りは友人からのプレゼント

「とよた」の飾りは友人からのプレゼント




■自分から動けば返ってくるものがある

ワーホリでヨーロッパへ。でもどの国へ? と考えた結果、候補として残ったのがドイツでした。ドイツはワーホリビザが簡単に取れ、仕事もありそうだと思ったからだそうです。

半年の期間の中で行ったことは、貯金とドイツ語の勉強。どちらも十分にはできなかったそうですが、2012年5月にベルリンへとやって来ました。そこから1週間で住民登録をし、語学学校を申し込み、アルバイトを決定。住まいは日本からひと月分だけ借りていました。
こうして新天地での生活がスタートしました。
「その経験から、自分から動けば必ず何かが返ってくる。動かなければ何も起きない、ということを学んだんです」

住まいをベルリンにしたのは、首都なら仕事があるのでは、という考えから。実際はドイツ国内の大都市に比べてベルリンは仕事が少なかったのですが、得がたい出会いや経験を経て、いまでもベルリンに住み続けています。

■仕事ゼロからのメール営業

こうして始まったドイツ生活。最初は知人からの撮影依頼やアルバイトで、生活は回っていきました。
しかしワーホリビザの期間が切れて、アーティストビザに切り替えた翌年に試練が訪れました。もう本業でしかドイツで働くことはできません。しかしまだドイツ語に自信がなかったため、ドイツ国内での営業をしていませんでした。
仕事は減っていき、ついに2014年4月から1ヵ月半の間、依頼がゼロに。
「このままじゃ死ぬ、と思いました」

危機感を募らせドイツ在住歴の長い日本人の知人に相談したところ、自分のホームページを作り、営業メールを書くことをアドバイスされました。人脈がない地で、フリーランスとして活動していくための一歩です。
営業をするには料理撮影という専門性をアピールした方がいいだろうと、料理写真が必要そうなレストランやケータリング会社、ホテル、出版社に毎日メールを送り続けました。1ヵ月半が過ぎ、送ったメールは約1300通になったそうです。
そのうち仕事につながったのは、わずか約1%でした。しかしその1%から仕事が広がり、いまに至っています。

私もフリーライターとして営業の重要さは身にしみていますが、ドイツでそこまでやれるかはわかりません。1000通もメールを書く前に、途中で心が折れてしまうかもしれません。豊田さんがそれほど多くのメールを送れたのは、ドイツで活動するんだという意志がそれだけ強かったからだと思います。「自分から動けば返ってくる」という経験が、ここでも生きたのでしょう。

撮った写真をきれいに仕上げる。Macスタンドはお手製

撮った写真をきれいに仕上げる。Macスタンドはお手製



撮影を担当したパンフレット。きれいな写真が認められ、次々と依頼が。

撮影を担当したパンフレット。きれいな写真が認められ、次々と依頼が




■ドイツ式の仕事を研究中

現在はドイツで好まれる撮り方や、仕事の交渉術を研究しているところです。

例えば日本の料理写真はきっちり、きれいに撮ることを求められますが、ドイツではあえてラフに撮る傾向があるとか。よくいえばアーティスティックな料理写真が好まれるそうです。

「ドイツではこちらの意見を尊重してくれるし、きちんと評価してくれます。いいときも、ダメなときもはっきりとしたリアクションが返ってくるのがいいですね」

これからは他都市でも仕事を増やして、将来はレシピ本の写真を担当したいと話す豊田さん。ドイツ在住の日本人料理フォトグラファーとして、その名前を見る機会が増えていくのではないでしょうか。

豊田裕さんHP: http://www.hiroshitoyoda.com/
部屋写真:Hiroshi Toyoda


文/ベルリン在住ライター 久保田由希
2002年よりベルリン在住。ドイツ・ベルリンのライフスタイル分野に関する著書多数。主な著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『ベルリンのカフェスタイル』(河出書房新社)、『レトロミックス・ライフ』(グラフィック社)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)など。近著に『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)。http://www.kubomaga.com/

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

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久保田 由希