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日本人的には違和感?!ドイツを含むヨーロッパの「冗談」

日本人的には違和感?!ドイツを含むヨーロッパの「冗談」

先日、日本とドイツの「冗談」のちがいについて書かせていただきました。その中で、ドイツ語の冗談には時事ネタ(それは事件や災害や事故だったりします)が含まれる事が多く、多くの場合それが皮肉であったりブラックであったりするため、その手のドイツ流冗談が日本では受け入れられないことも多々ある、ということを書きました。

 

そう、「冗談」にはその国の考え方や文化が要約されているので、その国の感覚というか空気のようなものが冗談に反映されているのですね。その国では昔から現在に至るまでにどのような冗談が言われてきたか、どのような冗談が市民権を得ていたのか、ということへの理解が求められますね。

 

その国の冗談に本気で笑えたなら、その国と心が一体化しているのかもしれない、といっても過言ではないと思います。その国の冗談を、「面白い!」と感じるのはその国の背景や感覚が肌でわかるということでもありますから。

 

冗談を通して文化交流と言うかお互いの双方理解のようなものができればいいんですけどね。

 

とはいっても、現実の世界では中々それが難しいからこそ、誤解があったり、同じ冗談について違う国の人同士が笑い合えなかったりすることが多いのもまた事実です。頭と心の両方で、他国の冗談を理解して笑えるって、それぐらい大変なことなのです。

 

でも、日本のテレビを見ていて、たまに「あ!この冗談ならドイツでもウケる!」というようなものもあったりします。

 

たとえば池上彰さんは国際的なジョークが得意だとお見受けします。日本人も外国人も笑える本当にグローバルな感覚の持ち主なんだなと。ちなみに、池上彰さんではないのですが、だいぶ前にテレビを見ていて、「あ!この冗談ならドイツでもウケる!」と思ったのは、ビートたけしさんの言った「病院の待合室は、年寄りの『たまり場』というか『遊び場』になってるんだよな。毎日、待合室でみんな集まって、おしゃべりしてな。だから、たまに誰かが来ないと、『今日は誰々さんいないねえ。体の具合でも、悪いのかねえ?』なんて言ったりして。」というもの。

 

趣味が良い冗談かは別として、これを聞いた時、瞬的にドイツ語訳が頭に浮かんだほど、ドイツ人的にもしっくりくるというか、ドイツでも笑える冗談だなと思いました。ちなみにドイツ語に訳すと、“Das Wartezimmer beim Arzt ist zu einem besseren Kaffeeklatsch geworden. Dort, im Wartezimmer, treffen sich alte Leute täglich und unterhalten sich über Gott und die Welt. Fehlt mal eine alte Dame, so fragen sich die anderen:“ Wo ist denn Elfriede geblieben, dass sie heute nicht hier(beim Arzt) ist? Ist die denn wohl krank?!“といった感じでございます。ちなみにElfriedeという名前はサンドラが作っちゃいました(笑)

 

上記のようにドイツでウケそうな冗談というのは、どこか皮肉っぽいものが多いのですね。

 

さて、こちらもかなり前になるのですが、アフリカはエチオピアで飢餓が問題になった際、当時ミュンヘンにはエチオピア料理店がありました。そこの前を通りかかるたびに、知り合いのドイツ人が「ほぅ。エチオピア料理か…。ここは、食べ物は何もないんだよね?だってエチオピア料理だから!」(ドイツ語のオリジナル“Äthiopisch essen…da gibt es wohl gar nichts zu essen oder was?!“)と言っておりました。。。他民族、または他民族の不幸な現状をネタにしたジョークですし日本的な感覚だとあまりよろしくないジョークですね。

 

それにしても、ドイツの日常生活で飛び交っているジョークは全体的に日本の冗談と比べて非常にブラックというかイジワルな発想のものが多いことは否めません。そして、その手の冗談は、他国や他民族をバカにしていると受け取られかねないわけですが、念のために断っておくと、自国の国民や政治家などもジョークの対象になっていることは多いのです。代表的なものに、ドイツ人であるOstfriesenwitze(Ostfrieslandエリアに住む人をからかったジョーク。ちなみにOstfrieslandはこのエリア)があります。詳細は省かせていただきますが。なお、場所を限定せずドイツ国民全般をからかったジョークも多いです。たとえばドイツで頻繁に笑いのネタにされるのはドイツのSpießbürgerです。Spießbürgerとは直訳すると「俗人」や「俗輩」のことですが基本的には「他人の目を気にするあまり、自分が平均的であること、またはその社会で平均的だとされていることの『少しだけ上』を行く事に異様にこだわる人達」のことであります。80年代前半であればマヨルカ島など当時ドイツで流行っていた南の島に一年に一度旅行をし、街の端っこにReihenhausを購入し、そして隣人の庭よりも自分の庭のほうが手入れが行き届いていれば「平均よりちょっと上」を自覚することができました。これらを目指すことがSpießbürgerの典型なのですけどね。また政治家に関しては、ドイツではジョークもそうですが、とくに新聞や雑誌の風刺画で面白おかしく描かれていることが多いですね。よって、メルケルさんについてもその体型も含めかなり皮肉っぽい風刺画が新聞や雑誌に乗っている現状がドイツにはあります。総合すると「自国の人(政治家や国民)を皮肉る」文化も確かにあるわけです。

 

このように、「自分たちのことも笑っているのだから、他の国のことも笑ってよし」という感覚がヨーロッパにはあるのですね。ただ、もしかしたら、読者の皆さんも感じていることかもしれませんが、「線引き」がどうなっているのかというのは私も気になっているところではあります。

 

いくら、からかいを含めたジョークが許されている土俵があるにしても、たとえば白人とは違う肌の色をからかうジョークが時代にそぐうものだとは思えませんし、色んな国やルーツの人が一緒に住むことが当たり前になっている現在の時代においてこの手のジョークが場違いなのは否めません。実際に観察してみると、ドイツにてこの手の「昔ながらの」ジョークを発すのは比較的年配の方だったりします。

 

ただ、全体を見ると、ヨーロッパでは時事ネタを扱った皮肉たっぷりの風刺画や冗談が昔からあったこと、そしてそれらが昔から楽しまれてきたことが、現在もブラックなユーモアが社会的に許されていることと関係しているのかもしれません。

 

そんなこんなで、ドイツ人のみならずヨーロッパ人はそれはそれはブラックなジョークを連発する傾向にありますが、冗談の内容がブラックだけに、まれにその後ほんとうに悲惨なことが起きることもあります。

 

たとえば2014年7月にウクライナ上空で打ち落とされたマレーシア航空機に乗っていたオランダ人(←オランダ人もブラックジョーク好き)は同機に搭乗前、アムステルダムのスキポール空港にて「飛行機が(2014年3月の時のように)行方不明になった時のことを考えて…機体はこんな感じ!」と機体の写真とともにTwitterにツイートをしました。しかしその後、飛行機はウクライナ上空で撃墜され、ツイートをした本人も亡くなる、という、なんとも後味の悪い事件がありました。日本人の感覚からすると、搭乗前にこのようなことをツイートすること自体に違和感を持つ人も少なくないようですが、ヨーロッパ的な感覚だと(←今回は悲惨な結果になってしまいましたが…)自分で自分のことを皮肉ることはある意味日常茶飯事なのですね。ちなみに、このオランダ人の搭乗前のツイートに関しては、飛行機の撃墜事件後にメディアでもかなり話題になっていましたので、おぼえている方もいるのではないでしょうか。冷笑的(sarkastisch)なブラックジョークを言った後の「まさか」でしたね。

 

さて、色んな例を挙げた結果、またまた長くなってしまいました。

 

まとめると…

 

日本人が欧州で長く生活する場合、そして現地の人と密にかかわり合う場合、現地(オランダやドイツなど)のSarkasmus(冷笑的な皮肉)とどれだけ上手に付き合えるかが問われます。sarkastisch(冷笑的)な冗談を言うことが欧州社会では市民権を得ているので、日本的な感覚からすると「趣味の悪い」冗談が飛び交っていることは事実なのですが、そことどう折り合いをつけるか・・・ですね。

 

では、また次回!

 

★補足1)今回、ヨーロッパやドイツの「冗談」について書きましたが、あくまでもこういう冗談が「ある」という話でして、良し悪しを問うものではないことをご了承ください。そう、「良い・悪い」ではなく、日本人とドイツ人の冗談のセンスにおける違いを説明したい意図でこちらを書いておりますので、そのあたりをご理解いただけるとうれしいです。

★補足2)NHKラジオ第二放送の再放送「まいにちドイツ語きっと新しい私に出会える“大人な女“のひとり旅」~Mihos Traumreise~」もあと2週間弱で終わりに近づいてきております。今、月~水の朝7時から放送されています(同日3時15分にも再放送)ので、ドイツ語に興味のある方、ぜひ聴いてくださいね(^_-)-☆

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン