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パートタイム・ベジタリアン

パートタイム・ベジタリアン ドイツ人のソーセージやカツレツに対する欲求に何が起こっているのか

© 2013 Frankfurter Societäts-Medien GmbH, Frankfurt am Main

パートタイム・ベジタリアン

昔々、日曜日のガーデンパーティーは今考えると恐ろしい食事であった。私の母はトロフィーのようにテーブルの中央に彼女の創作料理を並べた。ある時はキツネ色に揚がったカツレツ、ある時はタマネギとベーコンが中に入ったボリューム満点の肉巻き、もしくは、私の大好物である油で揚げたフライドポテト添えこんがり焼いたクリスピーチキン。サラダは脇に追いやられていた。当時は肉から溢れた油はたっぷりとポテトに注がれた。ぶくぶくした脂肪を纏うことはタブーではなかった。それらは純粋な料理の日々であった。私たちは好きなものを好きなだけ食べていた。上に挙げた全ての食べ物を。



状況は過去数十年で変化してきた。ドイツでは、肉はもはやステータスシンボルではない。砂糖のたっぷり入ったソフトドリンクと並んで、不健康な食べ物の最たる例と見なされている。新しい認識によると、悪い両親だけが子供にカツレツを作っているという。焼きソーセージはかつてドイツの食習慣に欠かせないメニューであったが、徐々に稀な存在になっている。そして最近よくとある発言を耳にする。「本当に、もうこれ以上肉は食べられない」。実におかしな話である。



外国の人たちは私たちドイツ人がソーセージとカツレツのエキスパートだと思い込んでいるかもしれないが、3分の2のドイツ人女性とほぼ40%のドイツ人男性は自分たちのことを「パートタイム・ベジタリアン」だと考えている。少なくとも、Forsaの調査ではそう言われている。今日のステータスシンボルはもはや日曜日のガーデンパーティーではなく、それを行わない禁欲的な決意である。健康長寿の生活を求めて、私たちはますますオーガニックスーパーマーケットで買い物をする。そして、もしテーブルに肉が並ぶとしたら、差し支えなければ、それは生前幸せに暮らした牛や恵まれた放し飼いのニワトリにした方がよい。



これは賢明なことのように聞こえる。実際のところ、ドイツでは肉をめぐる数多くのスキャンダルがあったのである。にもかかわらず、今もなお非常に安価で売られているのである。ケバブに使用された「腐った肉」、ステーキに含まれたBSEに感染した牛肉、そして特に大型動物をぶくぶく太らせている農場はネガティブなニュース見出しのお決まりの情報元となっている。しかし、これは誰かの健康に関するただの問題ではない。多くの人たちが動物を殺害することが根本的に倫理に反していると感じているのである。



アメリカ人ライター、ジョナサン・サフラン・フォアによって訴えている本「動物を食べること (Eating Animals)」に加え、ドイツ人作家、カレン・デューブによって書かれた「きちんと食べるーセルフテスト(Anständig Essen: ein Selbstversuch)」 もまた、これに発想の転換を与えた。そして、 いったんこの情報を知ってしまうと、スーパーマーケットの精肉コーナーに立ったとき、小さな動物たちの純粋な瞳のイメージを抑えることはほとんど不可能になってしまう。



でも気をつけすぎて、行き過ぎてしまう人もいる。例えば、完全なヴィーガン。少しずつではあるがどんどん数を増やしているこの集団は、やましいことのない良心を保ち苦痛のない世界を創るために、いかなる動物製品をも口にしない。焼き肉もだめ、チーズもだめ、卵もだめ、蜂蜜もだめ。そして、もちろんかれらは本当に革靴やアナグマの毛を刈って作られたヘアブラシも一切使用しないで生活している。確かに、それは命を少しも粗末に扱っていない。以前、あるレストランでヴィーガンの友人がおなかを鳴らしているのにもかかわらず、とても美味しそうなサラダを断らなければならなかった。それは、親切なウェイターが彼女にこう知らせたからであるー「僕はドレッシングに含まれている少量のミルクが心配なんだ…」。ヴィーガンによると、ミルクは動物を奴隷として働かせ、搾取したプロダクトなのである。



もちろん、特に今は夏なので、私たちは果樹園や畑から多くの恵みを享受している。肉がなくとも、アルプスから北海まで豊かな食材でテーブルは彩られている。私もまた「本当に、もうこれ以上肉は食べられない」と気軽にいうような人間の一人だ。でもやはり、時々、ニンニクを炒めた香りが有機農業で育てられた肉を焼く美味しそうな香りと混ざり合うと、私もまだ複雑な気持ちになる。理にかなった推論や倫理的原則は仕方がないかもしれない、けれどもたまには自分の直感に応じるのも大事ではないか。



ユルゲン・ツィーマー

ハンブルグ在住。Die Zeit 紙やRolling Stone 誌などでライターとして活躍している。熱心な料理家として、とりわけイタリア料理やタイ料理にトライするのを好む。



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