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バイリンガルのプラス面つらつら

バイリンガルのプラス面つらつら

© feltcafe (flickr.com)

バイリンガルのプラス面つらつら

前回はバイリンガルだからといって人生万々歳というわけではない、色んな問題が生じる可能性がある、と書いたが、今回はバイリンガルのプラス面について書いてみようと思う。もしかしたらプラス面について先に書いたほうが良かったのかもしれませんね。そこは私、ネガティブな事や問題点に先に目が行くドイツ人的な性格(ドイツは批判好き)なのかもしれません…。



バイリンガルのプラス面はなんたって日常生活が便利という事に尽きます。日本語とドイツ語のバイリンガルの場合、ドイツにいても日本にいても、相手に話しかけられたらスグに内容が分かる、そしてスグに答えられる。私は今、日本に住んでいるけれど、ガス点検のオジサンが来る時だって、もし自分が全く日本語ができなかったら相手の言っている事が理解できなくて大変だろうなあ、と思う。病院、引越し、公共料金の支払い、銀行の手続き。日本語ができなければ不便な事も多いのだろうなあ、と思うのです。



それに私の場合は容姿が欧米人風なので、「パッと見」では日本語ができる、って周りは分からない場合も多いんだよね。なのでそれを利用して、隣りの日本人同士が話している内容を耳をダンボにして全部聞いちゃったり、そういう「スパイごっこ」みたいな事をして楽しんじゃったりする。時代が時代なら本当のスパイになれたかもね(笑)



でもやっぱり一番バイリンガルで良かったな、と思うのは、友達がいっぱいできること!言葉の壁が無いから、日本人ともドイツ人とも話せるし、人間関係が広がる。日本語とドイツ語で色んな人と色んなお話ができるのは本当にありがたいこと。人間、やっぱり自分の母国語で話すのが一番安心するし楽だから、私は日本人とは日本語で話せて、そしてドイツ人とはドイツ語で話せて本当によかったなあ、思ってる。



言葉は人と人の間のコミュニケーションツールだから、良い人間関係の基盤のために言葉は大きな役割を果たしていると思う。もちろん同じ言語を話せる人同士が即友達になる、というわけではないが、言葉上のスムーズなコミュニケーションはやっぱり良い人間関係(友達関係、夫婦関係など何でも!)の基盤なんじゃないかなあ。



思うに、同じ言語を話す者同士、コミュニケーションが取りやすいのは、単に「お互いの言語が分かる」という事だけではなく、相手の文化の事も分かっているから、そこで関係が築きやすい、というのがあると思う。そう、言葉って言葉だけでは終わらないのだ。どういう意味かというと、例えばドイツ語を流暢に話す日本人はドイツ語の単語や文法の他にドイツの「文化」に関してもある程度の知識を持っている事が多いし、「言葉」と「文化」ってお互いに切り離せないものだと思う。ドイツ語がネイティブ、という事はドイツの社会や文化の事も分かっている、ということだ。そう考えると、「バイリンガルであること」というのは単に「言語を2つ操れる」ということではなく「文化を2つ知っている」ということでもある。そして、この「文化を2つ知っている」という事こそがバイリンガルの醍醐味だ。



文化を2つ知っていると、可能性はやはり広がる。人間関係が広がるのはもちろんのこと、色んな国で生活することが可能だったり、その国の文学をその国の言葉で読むことができる。バイリンガルである人には「フラフラ」の問題がつきまとうとは言え(「フラフラ」に関しては2月のコラム「バイリンガルの意外な落とし穴」をご覧ください)、バイリンガルであることにより可能性がかなり広がる事は間違いない。



前回、バイリンガルは意外と専門分野に興味が持てず専門知識が必要な職業に就かない傾向がある、という事を書いたが、言語が2つできるだけの「語学屋さん」という立場を仕事に活かすことだって可能だ。私が知っている日独バイリンガルのハーフにも語学(ドイツ語と日本語)を活かした翻訳や通訳の仕事をフリーランスでしている人もいるし、企業で語学力が求められる仕事に就いている人もいる。通訳・翻訳にとどまらず語学ができると、コーディネーター的な仕事もしやすいし、ビジネスの面において役に立つ事も確かに多い。



そしてバイリンガルである事を「能力」として仕事に活かせるか/活かせないかは別として、仕事とは別の観点からその人の人生を見た時に、両方の言語と文化を知っている事はやはりその人の人生を『豊か』にすると思う。ドイツ語に Bereicherung という言葉があるけれど、これは「豊かにすること」という意味。バイリンガルや2つの文化を知っていることで視野が広がるし、これは Bereicherung なんじゃないかな。



だから前回の連載で「バイリンガルだと、色んなところで”寄り道”をしてしまいがち」だと書いたけれど、私自身はそれを「素敵な寄り道」だと思っていたりするんだ。



そしてこれからも寄り道をしつつ、微力ながらドイツと日本の架け橋的な事がプライベートでも仕事でもできればいいな、と思っている。



次回は、子供にバイリンガル教育をしようか/しまいか迷っている親御さんへメッセージ的なものを書く予定です。皆様懲りずにお付き合いよろしくお願いいたします。





YG_JA_752[1]サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴12年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社)など5冊。自らが日独ハーフである事から、「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は今回が2回目。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン