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ハーフと愛国心 Part 4

ハーフと愛国心 Part 4

ハーフと愛国心 Part 4

~ドイツと日本、どちらの国にも「ただいま」と言える幸せ~



ハーフが愛国心を持つことの難しさについて前回書きましたが、ぜんぶ悪いことばかりかというと、もちろんそんなことはないんですよ。



私が「やっぱりドイツと日本の両方が好きなんだなあ」と実感するのは行ったりきたりする時。今、日本に住んでるんですが、ドイツに行ってミュンヘンの空港に降り立つと、「帰ってきたんだなあ」という気持ちになる。そしてまた日本に着く時も「ただいまー」と言ってたりする。そう、どちらの国にも「ただいまー」と帰って来られる。日本でも「ただいま」、ドイツでも「ただいま」。前回書いた話と矛盾するようだけれど、これも「ハーフとしての愛国心」の形なんだな。



「ただいま」と帰って来られる場所が二つあるということは、自分にとって「地元」と言える場所が二つあり、これは多少せつなさを伴いつつも幸せなことだと思う(同時に二つの場所にいることはできないから「せつなさ」を感じる)。日独ハーフの視点 1 の「日独ハーフは楽しさ2倍」 に書いたように、魂が一つで体が二つあれば同時にドイツと日本に両方いられるのになあ、なんて思ったりする。



二つの国を「観光客」としてではなく『地元の人』として味わう。その国その国、その地域その地域ごとの雰囲気を、地元の人として味わえる。私の場合、バイエルンの白とブルーの旗も、1リットルのビールも、あのビアガーデンの雰囲気をジモティー(古い表現かな…) として味わえるのだ。そして日本。夕方聞こえてくる「焼イモ~♪石焼イモ~、焼イモッ♪」。これを『懐かしい』って思えるところ。日曜夜テレビでやっている「サザエさん」を見てほのぼのしちゃうこと。小さなことだけれど、こういう時にハーフとして両方の国を「感じる」ことができてよかったなあ、と思う。



ドイツ・バイエルンの雰囲気を『地元の人』として味わえ、そして日本の雰囲気も『地元の人』として味わえる (自分の容姿が日本人的ではない、ということはこの際おいといてもらって…)。そういう雰囲気的なことを観光客としての目ではなく、あくまでも『地元の人の目』として味わえる事こそハーフの醍醐味なんじゃないかな。



イベント的なことでいえば、たとえばワールドカップで盛り上がっている時期に地元の人としてドイツにいるのはかなり楽しい。4年前のワールドカップの時にミュンヘンで郵便局に行ったら、窓口のおばさんがホッペに国旗を描いてくれて、そのまま街を歩き回って、日常を忘れてお祭り気分。みんな応援モードになってて活気があって、そんな雰囲気が好き。地元というのはやっぱり良いものです。



前にも書いた通り私はワールドカップやオリンピックで「絶対ドイツに勝ってほしい !」とか「絶対日本に勝ってほしい !」などの強い気持ちは持たない方なのだけど、お祭り気分はやっぱり楽しい。こんなことを言ったら勝ち負け勝負のスポーツファンや熱狂的サポーターに怒られちゃうかな。



『地元が二つ』といえば、ドイツと日本、両方の国のジョークがわかるのもうれしい。人の倍、笑える。ジョークってその国の言葉を地元の人として理解していないと何が面白いのか分からないことも多い。ジョークを理解するには語学力の他に、その地方特有の考え方の「クセ」とか、その地域の生活習慣、ユーモアのセンスを「体感」していないと分からないことが多いと思う。教科書で習った日本語、教科書で習ったドイツ語だけだとジョークは理解できない。日本・ドイツ、それぞれの国で何年か生活し、色んな人と話をして、テレビを見たり、タイムリーな話題に触れることで深まるジョーク理解力(笑)。とはいっても、なにもレベルの高いジョークばかりではなく、内容はテレビのコントだったり下ネタだったりもするんですが…。



そういう意味でいうと、教科書で習ったドイツ語・日本語は正確で品はよいけれど、それ以外のところ、つまり日々「生活している中」で覚える言葉というのが言語の上での「地元力」と言えるのかもしれない。



そして両方の国のジョークが分かるということは私の小さな誇りでもあったりする。



ちなみにドイツ・バイエルンのコメディアンだとGerhard Polt が好き。バイエルン訛りの会話が多いので、かなり地元色の強いジョークが多いのだけれど、現地の一部の視野の狭い人たちを遠回しにおちょくっているところがかなり笑えたりする。インターネットに「Gerhard Polt」と入力すると youtube に出てくるので、バイエルン訛りのドイツ語に自信のある方はぜひ一度見てみてください。



それにしても、私の両方の国に対する『愛着を感じること』の数々をまとめてみると、私の場合は日本でもドイツでも“都会派”というよりは”地元色”の濃いものに愛着や親しみを感じる傾向があるようだ。それは自分が小さいときからとても「地元ちっく」(バイエルンや千葉)な環境で育ったからかもしれない。



地元のにおいがするものを懐かしいと感じる。両方の国、ドイツと日本という二つの地元にたくさんの思い出があるから、「懐かしい」ものがたくさんある。友達だったり風景だったりにおいだったり。懐かしいことが両国(ドイツと日本)にあるのは幸せなことだと思う。色んなことが自分の記憶の一部となり自分の一部となっているのだから。



そう考えるとドイツと日本、両方の国に『懐かしい』という感情が持てること、そしてどちらの国にも『ただいま』と言えること。それが私の愛国心かな。



追記~今年は日独交流150周年ということで子供たちが「わたしのドイツ」をテーマに絵をたくさん描いてくれました。この絵は「中学生の部その3」のものでタイトルは「together」です。「ハーフと愛国心」のテーマにピッタリなので使わせていただきました。風鈴とドラえもんがナイスです。




YG_JA_1146[1]サンドラ・ヘフェリン


ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴13年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社) など5冊。自らが日独ハーフである事から、「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は月刊誌に続き今回が2回目である。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン